トランプ 関税引き上げ 影響は軽微?

どこまで税率が上がるかが焦点

2024年の大統領選挙で、当時のトランプ候補は、中国からの輸入品に60%、中国以外の国からの輸入品に20%の関税を課すと公言していた。しかし現在、米国の小売業界では、トランプ大統領による関税増税策が最悪の「高税率と貿易戦争」には至らないとの見方が有力になりつつある

選挙戦直後、全米小売業協会(NRF)は、中国に60%、その他の国に一律10%の追加関税が賦課される「シナリオA(黄線)」と中国に100%、その他の国に20%の税率が課せられる「シナリオB(茶線)」を予想していた(図)

前者では、アパレルは平均12.5%、靴は18.1%、玩具は38.3%の値上げをし後者では、アパレルは平均20.6%、靴は28.8%、玩具は55.8%高くなると試算。いずれにせよ、インフレが急伸し、消費者や小売業界を直撃するとの見通しだった。

しかし、トランプ氏の就任後、対中追加関税は20%にとどまり、カナダとメキシコに対する25%の追加関税の発動も1カ月の猶予期間が設けられた。就任前は、米国の主要輸入元である欧州連合(EU)や中国、インドなどへの平均実効関税率が現在の3%から20%程度に上昇すると予想されていたが、結関税果的には、品目ごとの「個別交渉」となっている。このようなトランプ氏による高税率の脅しは、交渉で有利な条件を引き出すための戦術だという見解が広まっている。

さらに、米国の金融大手、バンクオブアメリカのアナリストたちは、トランプ大統領が収束する気配のない米国内のインフレに配慮して、物価上昇を引き起こす可能性が高い関税の税率を引き下げる可能性があると論じている。

一方で、中国への20%の追加関税と、主要原材料である鉄鋼やアルミなどへの25%の関税は決定事項だ。これにより、前述のアパレルやおもちゃをはじめ、自動車、トラック、自転車、家電、スマホ、アルミ缶入りのビールや炭酸飲料など多くの品目で値上げが予想される。

また、靴に関しては米国がそのほとんどを中国に依存しており、中国側のメーカーや輸出業者のマージンが薄いため、関税賦課による値上がり幅が大きくなると予想される。つまり、中国に対する追加関税が20%であれば、現在抱えている在庫がなくなった後は小売価格も20%前後上昇することもありうる。

米玩具メーカーのマテル(Mattel)は、トランプ大統領の関税措置に伴うコスト増を相殺するため、「バービー」人形やミニカー「ホットウィール」などの値上げをすでに検討している。また、中国産の商品への依存度が高いダラーストア大手のダラーツリー(Dollar Tree)では、関税賦課を受けて1ドル均一商品を1ドル25セントへと値上げする。

18年〜19年に実施された対中関税の引き上げでは、人民元安によって米国の輸入物価の上昇が抑制されたことで、米国内の物価は目立った上昇に至らなかった。今回も同様の現象が起これば、小売業界への悪影響は緩和されるとの見方がある。加えて、輸出国の業者が関税によるコスト増をすべて米国の輸入業者や小売に転嫁するわけではないという指摘もある。望遠鏡 NEWTONYPR

ロビイングなど、関税対応はさまざま

では、米小売各社はこうした不可避の値上げにどのような対策を用意しているのか。関税に限らず、トランプ大統領は交渉の最初に突飛な要求をし、そこからリーダー同士や経営者との個人間の「ディール」を好む傾向があるのはよく知られた事実だ。

当初は許可しないと公言していた日本製鉄による米鉄鋼大手USスチールの買収を、「巨額投資ならよい」などと条件付きで容認する姿勢を見せたのは、その一例である。

米国政治ニュースサイト「パンチボウル」が報じるところによれば、トランプ大統領就任に合わせて首都ワシントンにおけるロビイストの登録が急増しているという。その中にはアパレル大手のギャップ(Gap)が含まれており、米国の消費者への悪影響が大きいとされるアパレルへの関税を除外対象にするよう、政権に働きかけていると思われる。

こうして、一部企業が政権へのロビイングを行うと同時に、多くの米国小売企業は昨年末から、関税引き上げを見込んだ駆け込み輸入を増加させている。これにより米主要港では、貨物の輸入量が当面の間、高水準で推移し続けると予想されている。

実際、米国の小売大手、ウォルマート(Walmart)は、24年の中国からの輸入量が、対前年同期前年比で33%上昇した。この多くは、関税上昇に備えた在庫積み増しだと、カリフォルニア大学ロサンゼルス校のクリストファー・タン教授は推測している。

一方、ホームセンター大手のホームデポ(Home Depot)は、サプライチェーンの包括的な見直しを行い、SKU レベルでこまめに調達先を変更するなど、関税対策を打っている。

ティーン向け衣料のパックサン(PacSun)では、大統領選の翌日にブリーアン・オルソン最高経営責任者(CEO)が香港に飛び、同社の35~40%の商品が生産される中国大陸の衣料工場担当者と関税対策を話し合った。同社では、中国からカンボジアやベトナムへ一部の生産を移して始めているが、トランプ政権の対中追加関税が10%と当初予想よりも低かったことで、関税によるコスト上昇分を小売価格に転嫁することは回避できそうだという。

そのほか、米国の玩具業界でも、20%の関税上昇分のいくらかは吸収できそうだと関係者は話している。

米ワシントン・ポスト(Washington Post)紙経済部のヘザー・ロング記者は、「過去数年間で小売業界はコスト上昇分を消費者に転嫁する方法を進化させてきた。トランプ関税のコスト上昇分が大きければ、値上げをしてゆくだろう」と予想している。

このように、小売各社の関税対策はロビイング、在庫積み増しから調達先変更、そして上昇分転嫁までさまざまだ。しかし、値上げは極力避けようとする努力が払われていることには留意すべきだろう。

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