「やる気をなくしたトランプ」で、アメリカは荒れる
最大の問題は、トランプ大統領本人がやる気を失ったこと。
トランプ大統領はもはや抜け殻だ。
なぜ、
トランプ大統領 にとっては、思い通りにならないことがあまりにも多い。
権力を振り回してもエクスタシーが得られなくなってしまった。
やる気をなくした。
そして側近が主導するようになった。
こうして、関税政策の揺り戻しが起きた。
トランプ大統領は、自分の発言の辻褄合わせのために、たまに力なく吠えるだけ。
やる気のないトランプ大統領には、もはや破壊力はない。
これまでの破壊、失点を取り戻すために積極的に動き、それを実現する気力もない。
だから、今後、トランプ政権では何も起きない。
ただ、この100日間の傷は深く残り続ける。
しかも、あと3年半残っている。
やる気のないトランプ大統領に、プラスの要素はゼロ。
トランプ大統領の支持者は、ディープステートという陰謀論の見方は植え付けられたまま。
しかし、「支持できた」過去のトランプ大統領はいない。
政治的な不満のぶつけ先もなくなった。
アメリカ社会は、さらに荒れるだろう。
だから、アメリカは死んだ。
トランプ大統領が殺した。
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「トランプ関税」とは何だったのか?
それは、アメリカと世界を殺して終わった。
「死へのロード」はもう始まっている
「これからはトランプ経済政策のプラス面が出てくる。減税の拡大があるし、しかも、それは関税の失策を取り返すために、派手な大減税をして支持率回復を目指すから、むしろ結果的にはプラスになりうる」。
馬鹿言うな。
トランプ関税で負った傷は破傷風のように、放置すれば本当に死んでしまうことになるだろう。その死へのロードはもう始まっている。
株価は、不安と期待で動く。今回はパニックとパニックの反動のランナーズハイ的な高揚感(安堵感というスパイスの効いた)だっただろう。しかし、それは、ただのセンチメントにすぎない。
実際に起きたことは、関税回避のための投資の意思決定、そして、その必要がなくなりそうであることからの躊躇、計画実施延期である。だから、アメリカへの生産回帰への貢献は、ほぼゼロである。
一方で、アメリカ以外の地域での生産、とりわけアメリカへの部品輸出のための生産は、一時停止、縮小だったから、生産は落ち込んだ。採用も減少したはずだ。つまり、様子見のために経済は止まった。まだ90日の猶予期間にすぎないから、撤廃したわけでないから、まだ止まり続けるだろう。
もうトランプ大統領に大したことはできないと思いつつも、信頼は失われ(もともと低かったとしても)、さらに、クレイジーさ、理不尽さ、ディールがうまいのではなく、実は下手な単なる強欲わがまま爺にすぎなかったことはわかってしまった。
しかし、一方で、最終的に関税措置を撤廃するまでは、自滅的なトランプ大統領は何をしでかすかわからないというリスクシナリオは消せないから、慎重姿勢は崩せないだろう。やはり、経済は3カ月仮死状態となってきたのであり、あと3カ月前後、仮死状態は続く。
景気は、実体経済においてもバブル的な好景気からの失速が始まっていたが、それが確定的になり、また必要以上に急速に失速する。となると、オーバーシュートも大きくなる。だから、不況は、トランプ関税騒動がなかったときよりも、深く長くなる。
「目覚めた欧州」も日本も、実質的に貧しくなる
一方、長期的な外交関係も大きく傷ついた。欧州とアメリカの傷は癒えないだろう。ウクライナをめぐって、欧州はトランプ大統領からもウラジーミル・プーチン大統領のロシアからも離れ、ウクライナ寄りになったとしても、根本的なアメリカへの不信、嫌悪感は潜在的にあった。だから、決定的に固定化され、戻らないだろう。
欧州が地政学的に自己責任に目覚めたというプラス要素はあるが、経済的にはそれはマイナスでしかない。ドイツは、国防費増加がGDPにも株価にもプラスのように言われているが、これは嘘で、GDPがプラスでも、実質的な豊かさにはマイナスだ。
例えば、日本でいえば、GDP600兆円だとして、防衛費がGDP1%から3%に増加して、12兆円GDPが増えたとしても、すでに完全雇用が実現し、供給制約が効いている日本経済においては、その少なくともインフレ、コスト高として現れるだろう。
すると、インフレ率が例えば1%上がったとすると、実質的なGDPでいえば、雑な計算だが、名目が12兆円増え、インフレで6兆円目減りし、実質6兆円増えることになる。
失業がない状態で財政出動するとインフレ分貧しくなる
しかし、考えてみてほしい。防衛費は必要だとは言え、国民の生活にはプラスにならない。GDP612兆円のうち、地政学的リスクが高まらなかったら必要なかった12兆円が軍事的装備に支払われたのである(おそらく自衛隊職員の数も給料もそれほど増えないだろうから)。
ということは実質的GDP606兆円となったが(インフレ6兆円を引いて)、そのうち12兆円は、国民の生活、豊かさと無関係なものに追加的に支出したわけだから、594兆円が国民の豊かさであり、それは防衛費増加前の600兆円から6兆円減っているのである。12兆円を赤字国債で賄ったとしても、6兆円実質的に、今日、貧しくなるのである。さらに将来から12兆円奪っているわけだから、国民の生活の豊かさ、という観点では18兆円失ったわけである。
こうしたことは、防衛費だけでなく、すべての政府支出、景気対策について言える。失業がない(人手不足の)状態で、財政出動で支出を増やすと、インフレの分、必ず貧しくなるのである。
貧しくならないためには、その政府支出がインフレ分を補って余りあるぐらい、社会に役に立つものでなくてはならない。防衛費は、それに該当する可能性があるから、まだ正当化の余地はある。もともと日本が軍事力不足だという認識に立てば、社会的に価値がある、ということはありうる。
しかし、とにかく経済をまわすために、お金をぐるぐる回すためにする景気対策は、失業対策でない限り、経済に、国民の生活に大きくマイナスなのである。
赤字国債だろうが、それを日銀に引き受けさせようが、財政支出1兆円が今日の経済にプラスになるためには、財政支出1兆円の中身が社会にとって1兆円以上の価値がないといけないのである。赤字国債による財政出動は、「今日の」経済にすらマイナスなのである。
英国の経済学者ジョン・メイナード・ケインズの「穴を掘って埋める」というのが経済にとってプラスになるためには、大量失業が解消するということが必要で、通常の状態では(要は1930年代の大恐慌時以外には)成り立たないのである。
図らずも財政支出の経済学の講義になってしまったが、要は、欧州も実質的には貧しくなる。経済には中長期にマイナスだ。インフレは今は痛いから、今に対してもマイナスだろう。
トランプ騒動でもっと傷ついたのはアメリカ
さらに、アメリカである。トランプ減税は絶対に実現しない。なぜなら、「トランプ100日騒動」で、もっとも傷ついたのはアメリカだからである。
大統領就任後100日間は、有権者とのハネムーン期間と言われるが、われわれ、アメリカ以外の国に住む者たちは、関税に振り回されたが、アメリカの社会は、それ以外のもの、より深刻なものに振り回された。
トランプ関税は、実質無意味にすぎないが、ロシア問題、イスラエル問題では、アメリカ外交の信用を失墜し、中国にチャンスを与えた。そして、アメリカ社会にとっては、社会の破壊が行われた。アメリカ最大のパワーである、ジャーナリズム、学問(大学・研究機関)を破壊してしまった。政府も破壊し、有為の人材は、研究者とともに、アメリカに公的に貢献することを放棄した。
トランプ支持者でなかった人々の怒りを煽り、トランプ支持者たちには、100日間は、トランプが頑張っている、行動しているということでの満足感を与えたが、それが何ももたらさなかったという不満の爆発の瞬間が来るときのガソリン燃料を彼らの内側に充填し続けた。
したがって、今後、トランプ政権が主導する減税などの法案を議会で通すことのできる可能性はなくなったであろう。もともと、トランプ大統領の熱狂的支持者には、直接利益のないどころか、不利益をもたらす富裕層への大減税は、目が覚めた元支持者たちの大きな怒りを買うだろう。株価にプラスの政策は今後、何も実現できなくなっただろう。
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