・大衆の困窮(経済的格差) 暴力 爆発寸前
・国家の能力低下(政府債務の増大)
・エリート層の不満解消としての暴力支援(経済の発展→エリート層の大量発生→ 恵まれないエリート層の発生→不満鬱積)
、、そして
<2010年に「ネイチャー誌」で2020年以降アメリカの政治不安が急激に高まると予測した
歴史動態学者タチン
トランプは問題の原因ではなく「症状」
バラク・オバマ米大統領(当時)が1期目半ばだった15年前は、ソーシャルメディアが急速に広がり、世界金融危機から徐々に回復しつつある時期だった。当時、米コネチカット大学のある教授がこんな警告を発した――アメリカは今後10年間、政治的に不安定さを増す時期に突入するだろう。
当時はへそ曲がりの戯言に聞こえた。世界経済もアメリカの政治秩序も、冷戦後の楽観主義にしっかりと支えられているように思えた。
保守派のポピュリスト運動「ティーパーティー」の台頭のように、わずかなひずみは見え始めていたが。
だが環境学者から歴史家に転身したピーター・ターチンには、自らの主張を裏づけるデータがあった。
ターチンは2010年、学術誌「ネイチャー」で
「歴史の定量分析から複雑な人間社会が周期的に、しかも予測可能な形で政治的不安定性の波の影響を受けることが明らかになった」と述べ、
2020年頃に政治的な不安定性が急激に高まるだろうと予測。
その要因として経済的格差、「エリートの過剰生産」と政府債務の増大を挙げた。

2020年からアメリカの政治的不安定は加速した、と言うターチン Courtesy of Peter Turchin
2期目のドナルド・トランプ米政権が始まった現在、アメリカはかつてないほどの分断に引き裂かれ、国家機構に対する不信感は過去最高の水準に達し、鋭い政治的対立が表面化している。
ターチンが本誌の取材に応じた。
「二世代も経てば混乱の記憶は薄れる。
エリートは自分たちに都合のいいように各種制度を再編し始める。
それによって再び社会の緊張が高まる。
その繰り返しだ」
現在の状況と最もよく似た時期の一つが1970年代だとターチンは指摘する。
1970年代はアメリカだけでなく西側全域で、
大学キャンパスや中流階級から過激な運動が台頭した。
たとえば米ミシガン大学の学生組織として始まった極左組織「ウェザーマン」は政府機関や銀行を爆破した。
西ドイツの「ドイツ赤軍派」やイタリアの「赤い旅団」も誘拐や暗殺を行った。
これらの運動を起こしたのは「持たざる者」たちではなく、
必要以上に高学歴で社会的地位が追いつかず、政治的に疎外されている人々だった。
「そうした構造が再び表面化するリスクが現実にある」とターチンは言う。
ターチンのモデルについては、その決定論的なトーンを疑問視する声もある。
だが彼は、自分は具体的な出来事を予測しているのではなく、
あくまでリスク要因と構造的なストレスの段階を予測しているにすぎないと強調する。
多くの政治アナリストや歴史家が、現代アメリカの政治的混乱が始まったのは2016年にトランプが米大統領選で勝利した時だと指摘しているが、ターチンはその何年も前から警鐘を鳴らしていた。
トランプがNBCの人気リアリティ番組の司会者として知られていた頃だ。
「知っての通り、2020年代のアメリカに政治的不安定性が到来することを、2010年に予測した。
歴史的なパターンと定量的な分析がそう言っていた」と、ターチンは本誌に語った。
「この予測に至った構造的要因は三つある。大衆の困窮、エリート層の過剰生産、そして国家の能力低下だ」
彼のモデルによれば、トランプの台頭はアメリカの政治危機の原因ではなく「症状」だ。
野心的で学歴も高いが権力から排除された「対抗的なエリート階級」が選んだ破壊装置だという。
トランプは権力から排除されたエリートではないが、
ワシントンのアウトサイダーで「既存秩序の敵役」を演じるポピュリストだからだ。
「エリート層の内部では競争はさらに激化しており、エリートにふさわしいポストの不足がその原動力になっている」と、彼は言う。
これまでエリートの象徴だった法曹界ではかなりの仕事が急速にAIに置き換わられている。
米国際開発庁(USAID)で数千のポストを削減した政府効率化省(DOGE)による政府リストラもこの傾向を加速させていると指摘する。
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