梅宮アンナ 高額療養費制度

がん治療中の梅宮アンナ(52)が感じた、日本の医療のホスピタリティ 〉から続く

 昨年8月、希少がんである乳がん“浸潤性小葉がん”のステージ3であることを公表した、梅宮アンナさん(52)。現在は、母のクラウディアさん(81)と、ときどき米国から帰国する娘の百々果さん(23)と生活をともにしながら、治療と仕事を両立させている。

 がん保険や高額療養費制度を選んだ理由について、語っていただいた。(全3回の3回目/ 最初 から読む)

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最高水準の治療を平等に受けられる日本の医療制度

 がんになる前から、常々感じてはいたことだけど、日本の医療はほぼ非の打ち所がない。私には、アメリカ在住の知人、友人が多い。なかには、がん治療で億を超える医療費を払った人もいて、アメリカで当たり前の医療で受けることの大変さをよく聞かされている。そして彼らが口を揃えて称賛するのが、日本の医療制度だ。

 これは有名な話だけど、アメリカには日本の国民健康保険のようなものがない。民間の保険に入っていないと、病院に行っても診てくれない。日本では国民健康保険で誰もが平等に標準治療を受けられるけど、アメリカではそれすらできない。

 そんな状況だから、民間の保険会社に月100万円とか払っている人なんてザラ。どう考えても、富裕層しか病気やケガを治せない。それが国民健康保険だと、保険料が年間で36万円、月で3万円くらい。負担は3割が基本で、ママのような高齢者は1割で済む。これで、世界最高水準の治療を受けられるなんて、ものすごいことだと思う。

 入院費に関しては個室だったから、面食らうことも多かったけど、血液検査が1回につき120円くらい、CT検査も数万円は「いいの?」ってくらいに安く感じた。いま思えば、あのホスピタリティや得られる安心感を考えたら、個室も安いほうなのかもしれない。今回の治療をアメリカで受けたら、どれくらいのお金が掛かってしまっていたんだろう? ことあるごとに「アメリカに住む!」なんて言ってた私だけど、いまはちっとも思わない。もし、アメリカに住んでいたら、ちゃんとした治療が受けられずにとっくに死んでいたかもしれない。

 医療制度のことを考えたら、日本からは出る気が起きない。アメリカで暮らして、働いている百々果は、23歳という若さもあってか「わあ~、アメリカ楽しい! USA最高!」ってノリだったけど、今回のことで日米医療制度の差を目の当たりにして、いろいろ思うところがあった様子。帰国して真っ先に歯医者で治療を受け、「歯の治療費、こんなに安いの? 日本の医療ってすごいんだね」と驚いていた。

高額療養費制度の引き上げ

 最近、高額療養費の負担上限額の引き上げが話題になった。高額療養費制度は、国民健康保険に加入している人が治療を受けたり、薬を処方されて、自己負担額の限度を超えた支払いをすることになっても、後で役所に申請すれば、支払った金額と限度額の差額分が支給されるもの。この自己負担額の上限を引き上げることで、国側の負担軽減を図ろうとしたことから大騒ぎになった。闘病中で高額療養費制度をフル活用している私には、無関心でいられないニュースだったし、私もこの制度にとてもお世話になった。

 病院の自動レジで本日分の医療費を精算すると、「今日のお会計は0円です」と表示されることが何度かあった。まこちゃん(マネージャー)に「0円って書いてあるけど、どういうことかな? 無料なわけないよね」と聞くと、「前に申請していた高額療養費制度の限度額に到達したんだと思うよ」と言われて、ハッとした。

 これだけの医療を受けても0円で帰ることができる制度の素晴らしさに感動していた。だからこそ、引き上げに反対する人の気持ちは痛いほどわかる。だって、生活するのがあきらかに楽じゃなくなっているから。年々悪くなっているどころじゃなく、日増しにひどくなっている気がする。

 お米が値上がって5キロで4500円とか、「ちょっと前まで、2000円台じゃなかったっけ?」とビックリした。お米以外の食品も、軒並み値上がりしている。なのに、テレビで「食品の価格が上がっているので、節約できるレシピを教えましょう」なんてノンキなことをやっていて「日本もここまで来たか……」とワナワナしてしまった。

 こんな経済状況ならば、反対の声があがるのも当然。闘病中の方が「ただでさえ、生活が苦しいのに、上限額が引き上げられたら死んでしまう」と答えていたのを見たときは、ひどく心がかき乱された。病気と戦っている人、病気になってない人、治療費を払えない人、いくらでも払える人、みんな年齢や立場が違うから、それぞれ違う意見があって当然だ。

当事者として思うこと

 でも、高額療養費制度の恩恵は絶対にある。たとえ上限額が引き上げられたとしても、絶対にある。

 先生たちによる診察や手術、看護師さんたちによる血圧測定やポートへのカテーテル接続、先生たちも看護師さんたちも泣きじゃくる私の話を根気よく聞いてくれた。2024年5月から受けてきたすべてのものは、1億円を払っても足りないくらいだ。なのに、負担したのは数百万円。いまこうして、再発転移もなく、やりたい仕事ができていることを考えたら、引き上げられても文句は言えない。

 もっとも、医療費なんて削るものじゃないと思っているし、ほかに削るべきものがいっぱいあるんじゃないか。1600億円も使って大阪・関西万博なんてやるくらいだったら、すこしでも医療設備などに回したほうがいいに決まっている。万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」らしいけど、なんだかモヤモヤしてしかたない。

 高額療養費制度には助けられているけど、長期の治療となるとたしかに経済的にしんどいものがある。これから10年にわたってホルモン剤、2年にわたって分子標的薬を飲み続けるわけだけど、ホルモン剤の代金だけでも月50万円になる。国保による3割負担で15万円、高額療養費制度を使えば月8万円にしてもらえるけど、それを10年となると960万円。

 さすがに「ホルモン剤って、ジェネリックないの?」って思ったけど、承認されていないらしい。死にたくないから、薬を処方してもらわないといけない。いままで買っていたものを諦めてでも、医療費は払うべき。まこちゃんと「毎月、1足靴を買うのを諦めればいいか」って話になった。

写真=鈴木七絵/文藝春秋

(平田 裕介)

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