小惑星「2024 YR4」 月に衝突か

小惑星「2024 YR4」が2032年12月22日に到達する可能性のある範囲が黄色で示されている/NASA/JPL Center for Near-Earth Object Studies

小惑星「2024 YR4」が2032年12月22日に到達する可能性のある範囲が黄色で示されている/NASA/JPL Center for Near-Earth Object Studies© CNN.co.jp

(CNN) カナダのウェスタン・オンタリオ大学の教授を務めるポール・ウィーガート氏によると、小惑星「2024 YR4」と月の衝突で生じた数百~数千個の微細な破片が降り注げば、地球の人工衛星群に影響が出かねない。こうした人工衛星は、最大10年分に相当する量の隕石(いんせき)にわずか数日でさらされる可能性もある。

人類は必要不可欠な宇宙インフラに依存している――。そう指摘するのは、宇宙ゴミなどへの危機対応策を策定する宇宙状況把握ソフトウェア企業「COMSPOC」のダン・オルトロギ主任研究員だ。

「宇宙は商業や通信、旅行、産業、教育、ソーシャルメディアなど、私たちの現在の生活のほぼあらゆる側面に関わっている。このため、宇宙へのアクセスや有効利用が断たれれば、人類に深刻なリスクを及ぼす」(オルトロギ氏)

ただ、破損した人工衛星の破片が他の衛星に衝突し、ドミノ効果や地球への落下を引き起こす「ケスラーシンドローム」にはつながらない可能性が高い。むしろ、自動車のフロントガラスに砂利が高速で直撃する状況に近いのかもしれない。太陽光パネルその他の繊細な部品が損傷する恐れはあるものの、人工衛星自体の一体性が損なわれることはないだろうと、ウィーガート氏は指摘する。

人工衛星からの通信や航法情報が一時的に途絶すれば、地球上の広い範囲で支障が出るとみられるが、ウィーガート氏はこうした潜在的な影響について、一般市民よりも衛星運用者が懸念すべき問題だとの見方を示した。

地球と月を守る

ウィーガート氏によれば、世界中の科学者や天文学者がこうしたシナリオを検討しているのは、YR4が観測不可能になる前に月衝突の可能性を排除できなかったからだ。

マサチューセッツ工科大学(MIT)のジュリアン・デ・ウィット准教授は、「月への衝突が深刻な結果をもたらす可能性があることは分かっている。それでは、我々はどう対応するのか?」と問いかける。もし小惑星が地球へ直接向かっているのであれば、惑星防衛の計画はもっと明確なものになるだろう。米ジョンズ・ホプキンス大学応用物理研究所の惑星天文学者、アンディ・リブキン氏は2022年9月、米航空宇宙局(NASA)の「二重小惑星進路変更実験(DART)」の主任研究員として、小惑星ディモルフォスに探査機を意図的に衝突させる実験を行った。

ディモルフォスは小型の小惑星で、比較的大きな親小惑星「ディディモス」の周囲を回っている。いずれも地球への脅威にはならないが、ディモルフォスのサイズはちょうど、地球衝突時に被害をもたらす可能性のある小惑星と似通っていることから、ディモルフォスとディディモスの二重小惑星系は進路変更技術の試験にうってつけだった。

DARTのミッションでは、探査機を秒速6キロのスピードで小惑星に衝突させ、こうした運動エネルギーによる衝突が宇宙空間における天体の動きを変更させるのに十分かどうかを検証した。

実験は成功だった。地上望遠鏡のデータによれば、衝突の当日以降、DARTの探査機によってディモルフォスの公転周期(ディディモスの回りを1周するのにかかる時間)は32~33分ほど短くなった。研究者は引き続き、探査機の直撃でディモルフォスの組成に影響が出て変形した可能性など、二つの星に生じたさらなる変化の観測を続けている。

同様に、もしYR4が月に衝突しても人工衛星に被害が出ないようであれば、月面が衝突にどう反応するかという知見を得る絶好の機会になる可能性があると、ウィーガート氏は指摘する。

ただ、YR4を月衝突の軌道から外すためにDARTのような探査機を送り込む対応が理にかなっているかは、現時点では見通せない。これについてデ・ウィット氏は、YR4が2028年ごろに再び観測できるようになった時、惑星防衛の関係者がどのようなリスク評価を下すかによるとの見方を示した。

隠れた脅威

YR4は、チリのリオウルタドにある小惑星地球衝突最終警報システム(ATLAS)の望遠鏡によって発見された。実はその2日前にすでに地球に最接近していたが、接近時は太陽のまぶしい光に隠れた状態だった。

欧州宇宙機関(ESA)によると、13年2月15日に直径約20メートルの小惑星が大気圏に突入し、ロシアのチェリャビンスク上空で爆発した時も同じことが起きた。この爆発により、数千棟の建物が損傷。死者は出なかったものの、衝撃波で住宅や商業施設の窓が吹き飛び、およそ1500人が負傷した。

小惑星観測の試みが難しい理由は多岐にわたると、リブキン氏は指摘する。小惑星は自ら光を放つのではなく太陽光を反射するだけなので、非常に暗く見えにくい。またサイズが比較的小さいことから、観測結果を解釈する際も、火星や木星などの惑星を望遠鏡で観測する場合のような分かりやすいプロセスにはならない。

「小惑星の場合、私たちには光の点としてしか観測できない。従って基本的には、明るさと温度を測定し、その明るさを得るためにどれだけの大きさが必要かに基づき、サイズを割り出すことになる」(リブキン氏)

天文学者は何十年もの間、暗い小惑星を夜間に探すことを余儀なくされてきた。つまり、太陽の方向から接近する小惑星は見逃されている可能性があるということだ。太陽の明るさを遮ることができない地上望遠鏡にとっては、これが最も大きな死角となる。

しかし、27年末までに打ち上げ予定のNASAの「NEOサーベイヤー」や、30年代初頭に打ち上げ予定のESAの地球近傍天体赤外線観測衛星「NEOMIR」などの新しい観測装置によって、この死角は縮小され、研究者が太陽に近い位置にある小惑星を検出しやすくなる可能性がある。

NASAなどの宇宙機関は常に、地球との距離や衝突時に重大な被害を引き起こす可能性に基づき定義される「潜在的に危険な小惑星」を監視している。NASAによると、太陽から地球までの距離の20分の1以内に近づくことができない小惑星は、「潜在的に危険な小惑星」とは見なされない。

チリのアンデス山脈に新設されたベラ・C・ルービン天文台が今年6月に初めて鮮やかな宇宙画像を公開した際、研究者は7夜にわたる観測の結果、従来知られなかった小惑星を2100個あまり発見したと明らかにした。

新たに発見された天体のうち、7個は地球近傍天体だった。

NASAによれば、地球近傍天体とは、太陽まで約1億9000万キロ以内に接近する軌道を持ち、地球に近い位置を通過する可能性のある小惑星または彗星(すいせい)を指す。ルービン天文台が発見した新しい地球近傍天体の中に、地球に脅威を及ぼすと判断されるものはなかった。

ルービン天文台は優れた「小惑星ハンター」の役割を果たすはず、とデ・ウィット氏は期待を寄せる。一方、ジェームズ・ウェッブのような望遠鏡は、ルービン天文台の発見をベースにした追加観測に使える可能性がある。ウェッブ望遠鏡を用いて2026年春にYR4を観測するというリブキン、デ・ウィット両氏の案は先ごろ承認された。28年以前にこの小惑星を観測できる可能性を秘めた望遠鏡はウェッブだけだ。

YR4にまつわるここまでの経緯から、月に影響を与える可能性のある小惑星は今後、これまで以上に集中的な研究の対象となる可能性がある。

「もしこれが本当に約5000年に1度しか心配する必要のない事象なのでれば、そこまで切迫した事態ではないのかもしれない」「しかし、月に衝突する可能性を秘めた物体を発見した場合にどう対応するかという問いは、少なくとも今から検討できることではある」(リブキン氏)

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