息切れ状態 ロシアの対ウクライナミサイル攻撃

 2022年9月から現在まで、ウクライナ参謀部や空軍司令部が公表したロシアのウクライナに対するミサイル攻撃の数は、約8600発である。

 それ以前の2022年2月から2022年8月までの数は公表されていないので、2022年の9~12月間の数字から推測すれば、6か月間でおそらく1800発ほど撃ち込んでいると考えられる。

 つまり、ロシアは侵攻開始から約1万発以上のミサイルをウクライナに撃ち込んでいるのだ。

 とはいえ、今年になってその数量は減少している。また、その種類にも変化が見られる。

 ミサイル攻撃数や種類の変化について、その実態と理由について考察する。このことで、ロシアがいかに苦境に陥っているのか、また、北朝鮮にどの程度依存しているのかが分かる。

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 ロシアの今の苦悩が分かれば、これまで1万発を超えるミサイルを撃ち込まれているウクライナに、欧米日は何を支援すべきなのか分かる。

 そこから、ロシア国内にミサイル攻撃を行い、ロシアが戦争を継続できなくなるように、改めて米欧がウクライナに何を供与すべきであるかを提言したい。

1.ロシアミサイル攻撃機数の減少

 ロシアのミサイル発射(月毎)については、グラフ1のとおりである。

 その発射数を、年間発射数とその月平均発射数に整理した。

 2022年公表データは2022年9月からなので、侵攻開始から8月までについては9~12月の平均値を使い、年間の発射数を推測した。

グラフ1 ロシアのミサイル発射機数の推移(月毎)出典:ウクライナ空軍司令部日々発表を、筆者が月間発数のグラフにしたもの

出典:ウクライナ空軍司令部日々発表を、筆者が月間発数のグラフにしたもの

 2022年では、9月以降、月平均約285発、年間(推測値)3400発

 2023年では、月平均約250発、年間約3000発

 2024年では、月平均約260発、年間約3100発

 2025年では、9月まで月平均150発、年間(推測値)1800発

 2025年の発射数は、このペースで予測し算定した。

 2023年と2024年と比べると、月間ではおおむね100~110発少なく、年間では1200~1300発少なく、約40%減少している。

2.攻撃数減少の中での飽和攻撃要領の変化

 ロシアのミサイル攻撃数は減少している。

 全体数が減少している中で、どのような飽和攻撃(多数のミサイルを同時に発射、敵の防空兵器対応を困難にさせること)を実施しているのか。

 そこで、冬の前に大規模に攻撃していた2022年11~12月の攻撃と2025年9月~10月現在までの攻撃の回数/日を比較してみた(グラフ2参照)。

グラフ2 ロシアのミサイル飽和攻撃、2022年と2025年現在の比較出典:ウクライナ空軍司令部日々発表資料を筆者がグラフにしたもの

出典:ウクライナ空軍司令部日々発表資料を筆者がグラフにしたもの

 ロシアは、2022年では1日に約80機の攻撃をしている。それ以下の少ない日でも、継続して攻撃を実施した。

 最近では、多い日でも50機ほどで、少ない日はまばらで攻撃がない日も多い。

 ロシアのミサイル攻撃の頻度は、明らかに少なくなってきている。

3.ミサイルの種類毎に増減を算定

 ロシアが発射するミサイルには、巡航ミサイル、空対地ミサイル、弾道ミサイルがある。

 巡航ミサイルには以下のタイプがある。

①爆撃機から空中発射される「Kh-101コディアック」(射程4500~5500キロ)、「Kh-555ケント」(3500キロ)

②潜水艦など水中や水上から発射の「3M-54カリブル」(射程2000~2500キロ)

③地上から発射の「イスカンデルK」(射程2000~2500キロ)

図 各種ミサイルの攻撃イメージ出典:各種情報に基づき筆者が作成したもの

出典:各種情報に基づき筆者が作成したもの

 弾道ミサイルには以下がある。

④地上から発射される「イスカンデル-M」(射程400~500キロ)

⑤「MiG-31」戦闘機や「Tu-22」爆撃機から発射されるキンジャール(イスカンデル-Mの空中発射型、射程2000~3000キロ)

 このミサイルは、北朝鮮が製造している「KN-23」短距離弾道ミサイルと外観も性能も同じとみられている。

 このため、ウクライナの報告では、イスカンデル-MもしくはKN-23と表示している。つまり、判別ができないのである。 

 空対地ミサイルには、⑥Tu-22から発射される「Kh-22キッチン」(射程600~750キロ、弾頭1トン)、「Kh-32」(射程600~1000キロ、弾頭500キロ)がある。

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 このミサイルは、高速で飛行するTu-22爆撃機から発射され、マッハ3.5~4.6の高速で撃ち込まれる。

 ウクライナ空軍司令部の発表の中で、まだ一度もこのミサイルを撃ち落としたという情報を私は見ていない。

4.弾道ミサイルの割合が増えた

 ロシアが使うミサイルの種類の割合が変わってきている。

 よく使われるミサイルとあまり使われなくなったミサイルがある。特に、昨年と今年とで違いがあったので次に述べる。

 2024年12月と2025年10月の中から、大量に撃ち込んだ3日間を選び、その場合のミサイル種類の割合を比較した。

 2024年12月では、巡航ミサイル82%、弾道ミサイル11%、空対地ミサイルなどが7%で、2025年10月では、巡航ミサイル70%、弾道ミサイル21%、空対地ミサイル9%であった。

 弾道ミサイル攻撃の比率が約10%増加している。

 特に、ロシアが2025年8月に発射したミサイルのうち、弾道ミサイルは50発であり全体154発の約33%、巡航ミサイルは102発で全体の約66%であった。

 現在と2024年末頃とを比べると、ロシアのミサイル攻撃の内訳は、弾道ミサイルの割合が増加し、巡航ミサイルが減少している傾向がある。

5.北朝鮮からの供給受け弾道ミサイル増加

 ウクライナに撃ち込んでいるロシアの弾道ミサイルは、地上発射のイスカンデルMと空中発射のキンジャールである。

 キンジャールはイスカンデルMを空中発射型にしたものであり、これらは、北朝鮮製のKN-23と同じである。

 ウクライナ空軍の発表はイスカンデルMとしていたが、最近では、イスカンデルMあるいはKN-23としている。

 現在、巡航ミサイルの発射数量が減少し、弾道ミサイルが増加しているのは、地上発射のイスカンデルMの割合が増加しているからである。

 このミサイルは、その多くが北朝鮮から提供されているKN-23とみられる。

 北朝鮮の地上発射型のKN-23が空中発射型のキンジャールとしても使用されている可能性がある。

 ロシアは、このミサイルの発射も継続して実施している。ロシアは、北朝鮮の弾道ミサイル供給に依存しつつあるといえる。

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6.ウクライナによるロシア爆撃機破壊の影響

 ロシアの爆撃機等がウクライナのFPV(First Person View=一人称視点 )ドローンで攻撃され約40機が破壊された。

 FPVドローンとは、操縦者がモニターやゴーグルを通して実際にドローンに搭乗して操縦しているかのように扱えるドローンのこと。

 ロシアは、ドローン攻撃から爆撃機を守るために、爆撃機を極東方面に移動させた。

 爆撃機をウクライナから遠く離れた地域に移動させたために、爆撃機を使った巡航ミサイル攻撃を頻繁にはできなくなり、その攻撃回数は減少した。

 だが、ロシアは爆撃機からの攻撃回数減少を補完するために、地上発射の巡航ミサイル「イスカンデルK」の攻撃回数を増加させた。

 イスカンデルK型は、弾道ミサイルのM型とは異なる巡航ミサイルである。移動発射装置は同じであるが、発射するミサイルは異なる(写真参照)。

 ロシアは、巡航ミサイルの生産を続けているのだが、その発射を地上発射に切り替えているのである。

写真 左:イスカンデルミサイルM型 右:イスカンデルミサイルK型出典:ロシア国防省

出典:ロシア国防省

7.ほとんど使用されなくなったミサイル

 ウクライナ侵攻当初に、ロシアがミサイル攻撃を実施した時、ウクライナに大きく地中深くまであるミサイル攻撃痕ができていたことがあった。

 これは、Tu-22爆撃機搭載の1トンの弾頭を持つミサイルKh-22キッチンであった。

 ロシアが撃ち込むミサイルの弾頭重量は、このミサイルを除けば、すべて500キロ以下である。

 1トンと500キロとでは、弾痕の大きさがかなり違うのである。

 このミサイルは、飛翔速度が速くマッハ3.5~4.6であり、ウクライナが撃墜したという情報を見たことがない。

 そのため、ウクライナとしては極めて厄介なミサイルなのである。

 だが、最近は、このミサイル発射は年に1発、2発あるいは数発だけである。今年6月9日に2発発射されたが、目標に到達できずに途中で落下したと考えられている。

 このほかに、対レーダーミサイル「Kh-31」クリプトンミサイルの射撃回数も極端に少なくなった。

 ロシアは、欧米や日本からの経済制裁により、ミサイルの要求性能に見合う高性能な部品を入手できないために製造できないのであろう。

 ミサイル部品の輸出規制が効果を発揮していると考えられる。

8.やりくりしながらミサイル攻撃継続

 ウクライナは、ロシアの兵器製造施設を無人機で破壊し続けている。

 その効果もあって、ロシアのミサイル攻撃回数は少なくなってきた。

 とはいえ、継続的にミサイルを製造し、北朝鮮からもミサイルそのものを導入している。枯渇してしまうことはないようだ。

 だが、ロシアが発射するミサイルの種類と割合には、変化が如実に表れている。

 ロシアのミサイル攻撃回数が減ってきたとはいえ、爆撃機を頻繁に使えなくなれば地上発射に切り替え、ミサイル製造数が少なくなれば北朝鮮から導入するなど、攻撃は継続している。

 しかし、ウクライナの防空兵器により、多数撃墜されてもいる。ロシアは、楽に戦っているのではない。台所事情は苦しい。

9.トマホーク供与について

 ロシアは、ウクライナにこれまで1万発以上のミサイルを撃ち込んできた。ウクライナは、欧州から長射程ミサイルを受領してきたが、その数は少ない。

 米国は、「トマホーク」ミサイルをウクライナに供与すると言っていたが、実際に供与するには至っていない。

 欧州が長距離ミサイルを供与しても、米国はロシア国内に撃ち込んではいけないなどの制約を付けてきた。

 米国はこれからも、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領との交渉で、供与や使用に制限や制約をつけるだろう。

 米国は、ロシアが1万発ものミサイルをウクライナに撃ち込んでいることを深刻に認識しているのだろうか。

 米国は、その1万発の10分の1から10分の3程度を供与しても、ロシアに非難される筋合いはないはずだ。

 もし、これだけの量の長距離ミサイルをウクライナに供与すれば、そして、ウクライナがそれをロシアに撃ち込めば、ロシアは戦争を継続することができなくなる。

 米欧は、今その決断をすべき時だ。

10.ミサイル供与が同盟国との絆を証明

 1万発ものミサイル攻撃を受けたウクライナに、長距離ミサイルを数千発供与することが、同盟国等との強い絆を証明することになる。

 もしも、日本が中国やロシアから1万発撃ち込まれ、日本が保有するミサイルが枯渇して、日本が耐えるだけの状況になった時に、米国は中国やロシアを攻撃できるミサイルを日本に供与してくれるだろうか。

 米国は、中国やロシアが核兵器の使用をちらつかせたとき、日本を守るためにミサイルを供与してくれるだろうか。

 ジョー・バイデン前大統領やトランプ大統領がミサイル供与に難色を示してきたことを考えると、ウクライナと違い日本が米国の同盟国であっても確信は持てない気がするのは私だけだろうか。

 供与されたとしても、ウクライナが使用に制限を加えられてきたことを見ていると、たとえ同盟国でもウクライナと同じ運命になってしまわないか、と心配になる。

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