トランプ 2029年1月(任期満了)までもたない

 2025年は政治・経済に限らず、様々な分野に影響を及ぼしたアメリカのトランプ大統領。2026年も世界から注目を集めると予想されるが、経営コンサルタントの大前研一氏は「中間選挙後、トランプ大統領は完全にレームダック化して政権を投げ出すかもしれない」と指摘する。大前氏はトランプ政権の今後をどう見ているのか? 2025年の動向を振り返りながらトランプ政権の行く末を分析する。

 * * *

 2026年の世界はどうなるのか? やはりトランプ大統領の動静が大きなカギを握るだろう。

 結論から先に言えば、トランプ大統領は残り3年、2029年1月の任期満了までもたないと思う。

 400m走で最初の100mを全力疾走して息切れした感が強く、アメリカでは支持率が40%を切るほど低迷しているトランプ大統領は、すでにレームダック(死に体)化しつつあるとの見方も出ている。実際、今年11月の中間選挙の前哨戦として注目されたニュージャージー州知事選、バージニア州知事選、ニューヨーク市長選、マイアミ市長選では、いずれも民主党候補が勝利した。中間選挙後、トランプ大統領は完全にレームダック化して政権を投げ出すかもしれない。

 この1年、トランプ大統領の動きは実に激しかった。ノーベル平和賞を渇望して「ピースメーカー(平和の構築者)」を自任し、就任してからイスラエルとイラン、イスラエルとハマス、タイとカンボジア、セルビアとコソボ、エジプトとエチオピアなど「8つの戦争」を止めたと主張してきた。

 しかし、イスラエルはハマスとの停戦発効後も攻撃を続けて国連総会ではパレスチナとの「2国家共存」決議に反対し、タイとカンボジアは再び衝突している。また、セルビアとコソボ、エジプトとエチオピアの間では、そもそも戦争や武力衝突は起きていない。

 さらに、ロシアとウクライナの戦争についてトランプ大統領は自分がプーチン大統領と直談判すればすぐ解決すると思っていたようだが、したたかなプーチン大統領に手こずり、ロシア寄りの和平案を提示してゼレンスキー大統領と欧州の反発を招いた。結局、トランプ大統領が首を突っ込んだ戦争はことごとく“元の木阿弥”になっているのだ。

すべて「ビビってやめる」大統領

 いったいこの1年のトランプ外交は何だったのか? 大山鳴動して鼠1匹どころか、全く成果が出ていない。

 象徴的なのは世界各国に対する関税攻勢だ。敵対する中国に対してはいったん最大145%の追加関税を課すとぶち上げたのをはじめ、同盟国の日本や欧州各国も対象にした。

 しかし、結局は「TACO」(Trump Always Chickens Out=トランプはいつもビビってやめる)だった。その後の通商協議で対中相互関税を125%から34%に引き下げ、国・地域別関税率24%の適用も延期した。日本や韓国に対する関税率も対米投資と引き換えに引き下げた。

 さらに、相互関税についてはスマホや半導体、重要鉱物、医薬品などが対象外となり、11月には農産物も除外された。新聞やテレビは「一部」「特定」の農産物と報じたが、実際は肥料、牛肉から、バナナ、オレンジ、トマト、香辛料、コーヒーまで、ほとんど全部の農産物である。もはや“トランプ関税”は骨抜き状態になっているのだ。その間にアメリカ国内ではインフレが進み、昨年9月の年間インフレ率は3%と1月以来の最高値になって、今後も上昇が懸念されている。

 一方で“トランプ関税”による税収は2025年度で1950億ドル(約30兆円)に達し、前年より770億ドル(約12兆円)増加した。トランプ大統領は、それを財源に高所得者を除くすべての国民に1人あたり少なくとも2000ドル(約30万円)の配当を支払うとSNSに投稿したが、実際は配る方法がなく「高所得者」の線引きもできていないというお粗末さだ。

 かてて加えてトランプ大統領は、FRB(米連邦準備制度理事会)が利下げしなければ、ベッセント財務長官を更迭する意向を示唆した。これまでトランプ政権ではベッセント財務長官が関税政策や金融政策で歯止め役となり、利下げに慎重なパウエルFRB議長の解任も、ベッセント財務長官の進言により思いとどまっていた。もしベッセント財務長官が更迭となれば、そのタガも外れてしまう

 また、それらの政策とは別に、トランプ大統領自身のスキャンダルも次々と浮上している。

 たとえば、性犯罪で起訴され独房で自殺したエプスタインの文書が完全公開されてトランプ大統領の関与が明白になったら、その打撃は相当シリアスだと思う。

 あるいは、暗号資産(仮想通貨)ビジネスの規制を緩和したトランプ大統領の一族企業が、わずか1年で100億ドル(約1兆5000億円)もの暗号資産ビジネスを築き上げていたと報じられている

 ホワイトハウスのレビット報道官は「大統領もその一族も利益相反に関与したことはなく、今後も決して関与しない」と説明したが、国のトップがファミリーあげて暗号資産を買い集め、莫大な収益を得ていたとなれば、インフレで生活苦にあえいでいる国民は納得できないだろう

 こうした問題が争点化し、中間選挙で共和党が敗北したら、トランプ大統領は任期を全うする気力がなくなると思うのだ。

 しかし、そうなった場合、後継者はトランプ大統領以上に右寄りのJ・D・バンス副大統領である。カマラ・ハリス前副大統領のような「子供のいない猫好きのおばさんたち」は「みじめな人生を送っている」と発言して物議を醸した人物だ。今より過激で狭量なバンス政権になるくらいなら、トランプが死に体でいてくれたほうがマシかもしれない。

【プロフィール】

大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。ビジネス・ブレークスルー(BBT)を創業し、現在、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『日本の論点2026-27』(プレジデント社)など著書多数。

※週刊ポスト2026年1月16・23日号

コメント

タイトルとURLをコピーしました