ペルシャ湾岸諸国
イランの標的となったペルシャ湾岸諸国はこれまでのところ、各都市に降り注ぐ数百機のドローンやミサイルに対し、高度な米国製防空システムを展開することで被害を抑えることに成功している。
石油資源が豊富なこれら湾岸地域のアラブ諸国は、人口と軍の規模が小さいにもかかわらず、米軍と統合された迎撃ミサイルやレーダーを備えており、世界で最も先進的な防空システムを配備している。
だが今回の戦争の行方を大きく左右するのは、イラン政府が飛翔(ひしょう)体を使い果たす前に、これら君主国の迎撃ミサイルが底をつかないかという点になる。そして現在の消費ペースでは、極めて近いうちにこの状況は現実となる可能性がある。
オスロ大学でミサイル技術を研究するファビアン・ホフマン氏は、「過去数日間に見られた迎撃ミサイルの使用強度は、あと1週間維持することはできず、おそらくせいぜい数日しかもたず、その後は迎撃ミサイル不足の痛みを感じることになるだろう」と述べた。
また2月28日にイランへの空爆作戦を開始したイスラエルと米国が、イランのミサイル発射装置やミサイル本体、ドローンの在庫を追跡して破壊する速度も、戦争の行方を決定づけるもう一つの大きな要素となる。
中東地域ではアラブ首長国連邦(UAE)だけでも、2日夜までの3日間で、イランからの174発の弾道ミサイル、8発の巡航ミサイル、689機のドローンの標的となった。ミサイルは迎撃されたが、44機のドローンが着弾したと発表されている。
バーレーン、クウェート、カタールも激しい攻撃を受け、バーレーン政府は70発の弾道ミサイルが飛来したと発表。2日には在クウェート米大使館に加え、カタールの主要発電所および主要液化天然ガス(LNG)施設が、他の標的とともにイランのドローンで攻撃された。
弾道ミサイル1発を撃墜する際、通常は防空システム「パトリオット」や地上配備型迎撃システム「THAAD」などで2発、場合によっては3発の迎撃ミサイルが必要となる。欧米政府の複数の当局者は今回の戦闘開始時に、イランが湾岸諸国に到達可能なミサイルを2000発以上保有していたと推定。この地域に配備されている迎撃ミサイルの正確な数は機密扱いだが、ホフマン氏は公開情報から、UAEが1000発に満たない数を発注していたと推測している。またクウェートは約500発、バーレーンは100発未満を発注したという。
UAEは迎撃能力に関する懸念を一蹴。同国外務省は3日、「多様で統合された多層的な防空システムを保有しており、あらゆる種類の空中からの脅威に高効率で対処できる」と述べた。
UAEはまた、「強固な戦略的弾薬備蓄を維持しており、長期間にわたって持続的な迎撃・対応能力を確保する一方、国家安全保障を守るための完全な作戦即応態勢を維持している」とした。
カタールも同様の声明で、パトリオット迎撃ミサイルの在庫は枯渇しておらず、十分な備蓄があるとしている。
米軍は中東地域により多くの軍事資産を迅速に展開しており、湾岸諸国は米軍の迎撃ミサイルによっても防衛されている。だが過去4年間にわたるウクライナ戦争で、ロシアの攻撃に対応する防空システムのために欧米諸国が保有するパトリオットの大部分が使われたことなどから、国防総省のパトリオットミサイルの備蓄も減少している。
米防衛大手ロッキード・マーチンは昨年、620発のパトリオット迎撃ミサイル「PAC-3 MSE」を製造し、今後7年間で年間生産量を2000発に引き上げる計画となっている。ミサイルのコストは、1発で数百万ドルとなっている。
長い期間にわたり迎撃ミサイル不足が制約となっていたウクライナとは異なり、湾岸諸国はパトリオットを使ってイランの「シャヘド」ドローンも迎撃している。だがドローンの生産コストは、ミサイルと比べて大幅に低いため、軍事アナリストらは、長期的に持続可能ではないと警告する。
米シンクタンクの新アメリカ安全保障センターの研究員、ベッカ・ワッサー氏は、「今後は戦術の変更が見られるだろう。需要が極めて高く、在庫が少なくなっているこれらの迎撃ミサイルは、はるかに慎重に使用され、最も価値の高い標的、つまり弾道ミサイルに対してのみ使用することになるだろう」と述べた。
ワッサー氏は、「この転換はリスクを受け入れること、つまり一部のドローンを着弾させることを意味する。これは湾岸諸国が投資、観光、駐在員を誘致しようとして何年も宣伝してきた相対的な平穏と安定に壊滅的な影響を与えるだろう」と指摘した。
イスラエルは昨年夏のイランとの12日間の戦争で、同様の課題に直面。紛争の最終局面にかけて迎撃ミサイルを割り当てながら使用しなければならなかった。これは重要な戦略的施設を保護するために、一部の民間地域への着弾を許容することを意味した。
湾岸諸国は、さらに困難な状況に直面している。イランは昨年時点で、約600マイル(965キロ)離れたイスラエルまで到達する中距離弾道ミサイルが限られており、備蓄の多くは使い果たされたか破壊されている。だが短距離弾道ミサイルの備蓄ははるかに多く、12日間の戦争後もほぼ無傷のまま維持されている。
さらに重要なことに、湾岸諸国はイランの代表的な兵器であるシャヘドに対して、イスラエルよりもはるかに脆弱(ぜいじゃく)な状況にある。シャヘドはウクライナに対するロシアの戦争でも多用されている兵器だが、イランからイスラエルに飛行するには数時間かかるため、探知と迎撃が容易だ。対照的に、イランから一部の湾岸地域の標的への飛行時間は分単位で数えることができる。
ドローンはUAEのホテルや空港、ジュベル・アリ港、サウジアラビアのラスタヌラ製油所、カタールのラスラファンLNGプラントへの攻撃でも成果を挙げている。
米国とイスラエルの航空機は、大きさやその特徴からミサイル発射装置は発見できるが、シャヘドは隠すことが容易だ。弾頭はミサイルよりはるかに小さいが、ウクライナ戦争では、ドローンが精製所、ポンプ場、石油ターミナルなどの可燃性エネルギー施設に壊滅的な損害を与える可能性があることが示された。
ドローン攻撃を受けたUAEのジェベル・アリ港
イスラエルの安全保障アナリスト、マイケル・ホロウィッツ氏は、「これらエネルギー施設は、ドローンからの防衛が極めて困難だ。ウクライナの人たちは時間をかけて適応したが、イランがこの道を進めば、サウジアラビア、UAE、カタール、クウェートが適応する頃には被害は既に発生しているだろう」と述べた。さらに「戦略地政学的に見れば、ドローンは実際にミサイルよりもはるかに大きな影響力を持つ。そしてイランは極めて長期間にわたって、ドローンを使い続けることができる」とした。
ダン・ケイン米統合参謀本部議長は、米国と湾岸諸国の防空システムによるここ数日間の成果を称賛している。だが2日には「攻撃型ドローンの脅威は依然として続いている」と認め、「われわれのシステムはこれらのプラットフォームに対抗し、目標に迅速に対処するうえで有効性を証明している」と述べた。
ウクライナでは重要な施設などを攻撃から守るため、対ドローン戦略に特化した多層防空システムが設けられた。だが米国や湾岸諸国は、今回これを行っていないとカーネギー国際平和基金の上級研究員のダラ・マシコット氏は指摘する。このシステムには機関銃などの低コスト兵器での武装が含まれる。
米国防総省でロシア軍事力の分析なども行っていたマシコット氏は、「このような問題に対処し、解決策を実施してきたパートナーたちがウクライナにいるにもかかわらず、われわれの軍事施設にこうした近接防衛が欠如しているのを見るのは痛ましい」と述べた。「われわれはウクライナ戦争から得られた教訓を、全軍を通して制度化していない。ウクライナ戦争は単なる欧州での地上戦ではなく、戦い方に革命が起きており、空軍や海軍もこれを考慮すべきだ」とした。

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