小中高生の自殺者が増加している。厚生労働省によると、2025年の1年間では538人で、統計を開始して以降、最多となっている。
【推移を見る】小中高生の自殺者数は6年連続で400人台、4年連続で500人台が続いている
全世代の自殺者数は2万人を割り、25年に1万9188人となり、統計開始以降で過去最少だった。人口10万人あたりの自殺者数は9.5で、初めて10を下回った。
自殺者数が減少した直接的な理由は不明だが、バブル経済崩壊期より雇用情勢が回復していることなどが指摘されている。
また、自殺対策基本法の成立(06年)、貸金業法改正によるグレーゾーン金利の廃止(10年)、アルコール健康障害対策基本法(13年)など、制度整備が進んだことに加え、相談体制や窓口が多様化し、整備されてきたことも要因の1つと言える。
自殺者数の年次推移(全世代)© 東洋経済オンライン
なぜ10代だけが増えているのか…
一方で、小中高生の自殺者数は、少子化で出生数が減少しているにもかかわらず増えており危機的だ。
小中高生の自殺者数で、これまで突出していたのは1986年の401人だった。この数字を6年連続で上回り、さらには4年連続で500人台と、唯一、10代だけが減少していない。
小中高生別自殺者数の年次推移© 東洋経済オンライン
新型コロナ感染症による社会の変化は、子どもたちの生活に影響を与えていると言ってよい。ただし、それ以前から小中高生の自殺者数は増えていた。
自殺願望のある男女9人(うち高校生を含む10代が4名)が殺害され、神奈川県座間市のアパートの一室から遺体で発見された事件があった17年は、年間357人の小中高生が自殺で亡くなった。自殺者が増加傾向にある中で起きた事件でもあった。
小中高生の自殺者増加の背景は、現時点では十分に解明されていない。黄川田仁志・こども政策担当大臣は4月30日の記者会見で、「子どもの命と安全を守るプロジェクト」を立ち上げ、「こどもや若者の自殺を防ぐための戦略」を表明した。
また同日、NPO法人OVAによる25年度の「こどもの自殺の多角的な要因分析に関する調査研究報告書」が公表された。この1つは、8自治体から受託して実施したインターネット相談の相談者のうち、相談開始時に18歳以下で、同意が得られた人を対象にした調査だ。
それによると、自殺行動、自殺の具体化、切迫した心理的苦痛、自己破壊的行動は自殺企図や自殺のほのめかしを行う可能性が高い「高リスク相談者」に多く、その可能性が低い「低・中リスク相談者」の2〜9倍出現しやすかった。
家族関連要因も「高リスク相談者」に多く、「低・中リスク相談者」の2〜3倍出現しやすいことが示された。一方で、学校問題は「低・中リスク相談者」のほうが出現しやすかった。
では個別の事例を通じて、自殺に至る背景や経緯を見ていこう。
自宅マンションから飛び降りたサオリ
サオリ(仮名、20代)は高校1年のとき、自分で児童相談所(児相)に電話をして、一時保護されたという。
父親には「殺すぞ!」と言われ、学校へ逃げた。すると学校が児相に通報し、数カ月保護されたのだ。筆者がサオリに会ったのは、新宿・歌舞伎町の映画館「TOHOシネマズ」西側にある「シネシティ広場」、通称「トー横」と呼ばれる場所だ。
サオリは幼い頃より父親から身体的虐待を受けていた。しかし、母親や祖母は、守ることができないでいた。
「いつからか?小学校ぐらいかな? いや。記憶が曖昧だけど、もう多分その前から。幼稚園とかもしれない。その頃、あざだらけだったような気もする。サオリは父親が子どもを殴る人という愚痴を親戚中に言っていたので、周囲は知っていたと思う。でも、親戚には『何もできへん』と言われていた。殴られても、母親も祖母も見ているだけ」
高校受験のときのこんなエピソードも教えてくれた。
「スマホは取られた。だからストレス解消で楽器をいじっていた。クリスマスに買ってもらったギター。最初は『カントリーロード』を弾こうと思って練習していたが、なかなかできない。弦を押さえる力が足りなくて、十分な音が出なかった。それを父親に見つかり、ギターを壊された。『勉強しろ』と言われ、殴られた。ギターは自分の部屋にボロボロになったままになっている。捨てられなくて……」
児相に電話したのはそんなときだ。
「(一時保護所は)家よりも居心地はよかった。一人部屋なのはいいですが、ほかの人と話してはいけないルールでした。決められた時間に勉強し、食事する。スマホは没収されたので、だいぶ暇でした」
取材をしていると、一時保護所は、虐待された子にとっても決して居心地のよい場所ではないと感じる。自ら児相に電話をして一時避難先としたサオリのように、児相をこうした形で利用できる人は多くはない。
その後、サオリはグリ下(大阪道頓堀のグリコの看板下)やトー横に来て、人間関係を広げた。そこでできた人間関係のストレスから市販薬の過量服薬(オーバードーズ、以下OD)をした。
このときは自殺するつもりではなかった。しかし、その後アルバイト先でトラブルがあったため、死のうと思った。自宅マンションから飛び降りし、精神科病院に入院した。
10代や20代前半が歌舞伎町で心中、自殺…
筆者が「トー横」に注目したのにはきっかけがある。コロナ禍で起きた心中だ。21年5月11日、新宿・歌舞伎町のアパホテル近くで起きた。
「亡くなった2人とはよく歌舞伎町のホテルで一緒に寝たりしていました」
10代の男女2人が倒れていたところを当時目撃した女子高生アミ(仮名10代)は、亡くなる直前、ホテルのエレベーターホールで見かけたというのだ。そして。こうも証言する。
「同じホテルに泊まっていたのですが、コンビニへ行き、ホテルに戻るときに2人が倒れていたんです。見つけたときにはショックで、名前を叫んでいました」
2人は、ホテルの上層階の非常階段から、飛び降りた。翌週にも10代の男性が同じような場所から飛び降りた。さらには、同年12月29日、9歳の男児が転落死した。その後の調べで、川崎市在住の母親(47)が殺人容疑で逮捕された。「無理心中しようと思った」と供述した。
これまでも歌舞伎町では、ホストクラブでのトラブルから飛び降りる女性がいるというのは知られていた。ただ、その舞台の多くはホストクラブが入っているビルだったりする。しかし、最近、歌舞伎町で起きる心中や自殺は10代や20代前半であり、ホストクラブとの関係はない。
2人が残したSNSの動画では、特に自殺の理由になるようなことは話していない。ただ、亡くなる数時間前、一緒に亡くなった男性のものと思われるTwitter(現在のX)には、《(一緒に亡くなった中学生と)付き合ったカモ〜》との投稿をしていた。また、最後の投稿は、約1時間前の《お幸せになるが〜!》というものだった。
第一発見者のアミは、こう振り返る。
「エレベーターには一緒に乗らなかったので、会話はしませんでしたが、すごく暗い様子でした。OD後っぽかったんですが。あのとき、(自殺するのを)気づいていればよかったと後悔しています。2人のことを考えて、病みました」
2人はどんな悩みがあったのだろうか。
「亡くなった男の子と話をしていたときに、時々、『死にたい』と話していました。その理由は言ったことがなかったですね。ただ、お母さんからくる《どこにいるの?》とか《早く帰ってきて》などのLINEをとても嫌だって話していた。たくさん(LINEのメッセージが)きていたと思います。
それ以上のことを深く話してはいないです。女の子は『家に帰りたくない』とは言っていましたが、悩みの話はほとんどせず、トー横で楽しく友達と話したり、お酒を飲んだりしていました」
詳細はわからないが、家族問題で悩みがあったのではないかと思われている。
教員による不適切な指導後に亡くなった男子生徒
こども家庭庁は「こどもの自殺対策緊急強化プラン」を23年に策定した。その中で背景要因の分析がある。
背景要因を分析する手法の1つに、文部科学省の「子どもの自殺が起きたときの背景調査の指針」による「基本調査」のデータ収集がある。これは11年6月に作成された後、13年にいじめ防止対策推進法が成立したことを受け改訂。そして24年12月にも、「児童生徒の自殺が起きたときの背景調査の指針」として再度、改訂されている。
この改訂は、教員による不適切な指導を背景に自殺した遺族らでつくる「安全な生徒指導を考える会」が要望していたもので、改訂時には同会のほかにも、一般社団法人ここから未来の意見も反映された。
それにより、教員による不適切な指導が背景にあった場合の調査手法についても明記された。
その会のメンバーに、鹿児島市立中学校に通っていたが、不適切な指導後に亡くなった男子生徒の遺族も入っていた。
18年9月の始業式の日、提出を忘れていた課題を、その日のうちに提出するように指導された男子生徒Aさんは、自宅に向かい、自室で亡くなった。この自殺案件に関連して、Aさんの保護者は市を相手に裁判を起こしている。
提出していなかった課題は、(1)数学のプリント集、(2)保健体育の「体話」(親子で取り組むストレッチ)、(3)「特別活動の調べ」(高校の体験入学をまとめた内容)、(4)標語、(5)夏休みのしおり、(6)保護者のコメントを記入した「通知表」。
この日の午後1時15分ごろ、帰りの会の終わりに、担任は「忘れ物をした生徒が複数名いる。教卓に来なさい」と言った。Aさんを含む6人が教卓周辺に集まった。担任は「いつ提出するのか?」と聞いた。Aさんは「数学のプリント集」を紛失したことを伝えた。
すると、担任は「今日が締め切り。今日提出するように」と指導した。このときの指導の際、担任は大声を張り上げた。ほかの生徒の証言では「何を言っているのかわからなかった」という。
提出できなかった指導に関して、この6人に対する指導はこの段階で終わりにならなかった。このうち、理由は示されなかったが、Aさんを含む2人が職員室に呼ばれた。
そこで、もう1人の生徒は「よく忘れる」(担任教諭だった女性)とのことで、諦めモードになっており、「もう、またなのね」というスタンスだった。そのため、大声を出していない。しかし、Aさんに対しては大きな声で叱責をした。
「(Aさんは)いつも概ね宿題を提出していた。しかし、このときは明らかにほかの生徒よりも提出してない。大声を出したのは、(遊んでしまったという)夏休みの過ごし方について気になったから。明らかに勉強に向かっていないため、自覚させるためだった」(担任教諭だった女性)
このときの教諭の声は、校舎外にいた男子生徒にも聞こえた。裁判では声量について、「10段階のうち7か8」と述べていた。最終的にAさんは職員室を出るが、そのときに涙を流した。
「中3になってすぐ、『担任が嫌なので、クラス替えをしてほしい』と言っていました。『それはできないでしょ』と伝えたのですが、翌日も『担任の先生が嫌だ』と言っていたんです。私は『まだそんなこと言っているの? 社会に出たら、ウマの合わない人は出てくるよ。今年は先生とではなく、友達と思い出をつくりなさい』って言ったんです。その後、言わなくなりました」(母親)
大声での叱責と理不尽さが自殺への衝動を誘発したか
Aさんが、この教諭の大声の叱責を怖がっていたのは理由がある。2年生のとき、バスケットボール部でのふざけた行為によって、部員たちが指導を受けた。
そのときに、部に無関係であるにもかかわらず、校舎内で叱責をした。Aさんはその行為に関係なかったが、連帯責任として指導をされている。そのとき、部の保護者会が開かれていた部屋にまで声が響きわたった。
この担任による大声の叱責が理不尽なイメージと結びついていたのだろう。そして、今回の始業式のときも、提出しなかった生徒6人のうち、なぜかAさんともう1人の生徒だけ職員室に呼ばれた。そしてAさんだけが大声で叱責された。
このとき、「数学のプリント集」をなくしてしまったことを伝えていた。担任は数学担当の教諭にもらうように言っていたが、その教諭は学校を休んでいた。
にもかかわらず、「その日の提出」を変えなかった。このことも理不尽さについて思いを深くした可能性がある。自宅に取りに行かせ、1人にさせたことで、自殺への衝動を誘発させた可能性がある。
支援には大人への信頼感が求められる
家族問題を背景としたこども・若者の自殺は、なかなか対策が難しい。児童相談所や行政の窓口などとつながっていれば、家庭内の様子を把握しやすい。
また、周囲がODなどの自傷行為をはじめ、自殺関連行動を把握できれば、精神保健など自殺対策の窓口や、こども家庭庁の「緊急強化プラン」にある「こども・若者危機対応チーム」につながりやすい。その前提として大人への信頼感が求められるため、当事者目線での支援が必要となるだろう。
一方、文科省は25年12月、児童生徒の自殺が起きた場合の「背景調査の指針」を改訂した。いじめの疑いの場合は、いじめ防止対策推進法(13年)に従って調査をする。しかし、体罰・不適切指導が背景に疑われる場合に実施される「詳細調査」は第三者委員会方式であることが明記された。
しかし、「指針」による、自殺が起きた段階で資料を集めるなどする「基本調査」は100%実施だが、「詳細調査」は5.6%(24年度)でしかない。そのためか、22年度調査から「自殺した児童生徒が置かれていた状況」に「教職員による体罰・不適切指導」が追加されたものの、年1〜2件が計上されているだけだ。
不適切な指導を背景にした自殺は「指導死」と呼ばれている。指導死で亡くなった当事者は、日頃から自殺願望が強いわけではない。OVAの調査でいう「低・中リスク相談者」に当たるだろう。
しかし、きっかけとなるハラスメントがあれば、比較的短期間で自殺関連行動を取ることがある。22年12月に改訂された生徒指導の基本書「生徒指導提要」では、不適切な指導が不登校や自殺につながるリスクが指摘されている。
指導死を防ぐためには、不適切な指導とは何かを認識し、行ってしまった場合にどのようなフォローアップが必要かを把握する必要がある。そのため岡山県が研修ビデオを作成したように、児童生徒に対しても、教職員に対しても啓発や研修が求められる。

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