トランプ関税引き上げで 電力供給に問題が・・・

電力需給はすでに逼迫しており、関税はコストを押し上げる新たな要因になるとみられる

米国の電力網は大規模な投資を必要としている。そのコストは関税によって大幅に押し上げられるかもしれない。

データセンターなどで電力の需要が膨らんでおり、電力網への負担は増加するとみられている。電力網で重要な役割を担う変圧器は特に脆弱(ぜいじゃく)だと思われる。変圧器は発電所から家庭や工場に電気を送る際に電圧を上下させる働きをする。風力や太陽光、天然ガスなど新たな電力源が電力網に接続されるたびに新たな変圧器が必要となるため、変圧器が不足すれば送電が滞ることになりかねない。

電力業界ではすでに変圧器が不足しており、変圧器の需要は今後さらに急増すると予想されている。調査会社ウッドマッケンジーのリポートによると、変圧器のサプライヤーは生産能力拡大に向けた大規模な投資には消極的で、投資回収に時間がかかることがその理由になっている。

米国立再生可能エネルギー研究所(NREL)の推計によると、稼働中の配電用変圧器の約55%が少なくとも33年使用されており、寿命が近づいている。需要に対応するためには配電用変圧器の容量を2050年までに、21年比で160~260%増やす必要が生じるかもしれないという。

トランプ米政権はこれまでに鉄鋼とアルミニウムに25%の関税を、中国からの輸入品に対しては一律10%の関税を課した。関税はさらに発動される可能性がある。ドナルド・トランプ大統領が提案したカナダとメキシコに対する25%の関税発動は1カ月延期されたが、猶予期間は3月上旬に終了する予定だ。トランプ氏はまた、世界の貿易相手国に対する相互関税を検討するよう連邦機関に指示しているほか、銅を対象にした関税も示唆している。

変圧器がネックになる可能性がある。ウッドマッケンジーによると、変圧器は需要の約20%しか米国内のサプライチェーン(供給網)で賄うことができない上、電磁鋼板や銅など原材料のコスト上昇により、価格が2020年1月以降に推定70~100%上昇している。鉄鋼も変圧器に不可欠であり、変圧器用の方向性電磁鋼板を米国内で生産するのは鉄鋼大手クリーブランド・クリフスのみだ。トランプ氏が実際にカナダとメキシコに対して25%の関税を発動し、銅にも関税をかけると仮定すると、変圧器の価格はさらに8~9%上昇するとウッドマッケンジーは予想している。

メキシコ、カナダ、中国は米国にとって電気機器の重要な供給源となっている。ウッドマッケンジーによると、2024年の米国の輸入品のうち、低圧変圧器では中国の割合が32%超で、高圧変圧器ではメキシコが36%だった。カナダは米国が輸入する高圧開閉器の約16%、電柱の100%を占めた。ウッドマッケンジーのクリス・シープル副会長によると、電力会社は通常、購入する変圧器の信頼性を長いプロセスを経て確認し、特注品を要求する傾向がある。このため、新たなサプライヤーに切り替えるのは簡単ではないという。

注目すべきは、関税が米国の製造業者にとって追い風になるかどうかだ。発電設備大手のGEベルノバは19日、関税が同社の財務に及ぼす影響を判断するのは時期尚早だとの見方を示した。今のところ影響は比較的小さいようだ。GEベルノバでは米国への輸入品のうち、カナダ、メキシコ、中国が占める割合は5%に満たないとスコット・ストレイジック最高経営責任者(CEO)は述べた。同社は米国と欧州に変圧器工場を持つ。また1月には、今後2年間で米国の工場・設備に約6億ドル(約900億円)を投資すると発表しており、これにはガスタービンや変圧器、開閉装置が含まれる。

だが結局のところ、電力需給はすでに逼迫(ひっぱく)しており、関税はコストを押し上げる新たな要因になると思われる。ニュージャージー州公益事業委員会は先週、2025年6月から12カ月間の月平均の家庭用電気料金は17~20%増加するとの見通しを発表した。データセンターでの需要増などが影響するという。米労働統計局(BLS)によると、米国全体では過去5年間の電力価格の年平均伸び率は5.7%で、その前の5年間は価格はほぼ横ばいだった。

また、鉄鋼とアルミニウムを対象とした25%の関税発動を受け、こうしたエネルギー集約産業で製造拠点を米国内に回帰させる動きが広がれば、長期的に国内の電力需要は増加することになるとシープル氏は指摘する。

人工知能(AI)における米国の優位性確立と製造業の国内回帰は政策目標としては支持されやすい。ただ、それを追求することで犠牲になるのは、家庭用電気料金の引き下げという、おそらく最も支持を集める目標かもしれない。

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