過酷なマラソン 脳が自分自身を食べる


過酷なマラソンによって飢餓状態になると、脳は自らの脂肪組織を消費してエネルギーをまかなおうとすることが判明したとの論文が発表されました。2カ月以内に元に戻るこの可逆的な現象の発見により、ミエリンと呼ばれる神経細胞の保護組織がエネルギー貯蔵庫としても機能している可能性が示されました。

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ミエリンは神経細胞から伸びる軸索を包む脂質が豊富な組織で、主にニューロンの絶縁体の役割を果たしています。

筋肉が体脂肪を燃やしてエネルギーにするのと同様に、脳細胞もミエリンの脂質をエネルギーにしているのではないかとの仮説を立てたスペインの研究者らは、約42kmの距離を走破したベテランランナー10人の脳をスキャンする実験を行いました。

研究チームが、マラソンを走る前と後のランナーの脳をMRIで画像化し、ミエリンに含まれる水分を指標とした「ミエリン含有量」を調べたところ、脳で最も脂肪組織が豊富な白質でミエリンの量が大きく減少していることがわかりました。

ミエリンが大きく減少した白質領域を3D画像化すると以下のようになります。

研究チームは、主に運動機能や協調性、感覚や感情の統合に関わる脳領域で相当量のミエリンが失われたと報告しました。また、参加者の一部を対象とした継続的なスキャンにより、マラソンから2週間後にはミエリンが大幅に回復していたことや、2カ月でマラソン前の水準まで回復したこともわかりました。

以下は、ミエリン中の水分量(MWF)を左からマラソン前、マラソンから2日後、2週間後、2カ月後で比較したスキャン画像で、色が明るい部分ほどMWFが多いことを意味しています。

また、以下のグラフはMWFをマラソン前(緑色)、マラソン後(赤色)、マラソンから2カ月後(青)とで比較したものです。12ある白質の領域のすべてでマラソン後にミエリンが減少し、それから2カ月後までにほぼ完全に回復していることがわかります。

これまで、一部の神経学者は「脳は栄養不足に陥っても脂肪を燃やしてエネルギーにすることはほとんどない」と考えてきましたが、今回の研究によりミエリンが神経の保護だけでなくエネルギー貯蔵庫としての機能も発揮していることが示されました。研究チームは、この仮説を「代謝性ミエリン可塑性」と名付けています。

研究チームによると、マウスを用いた別の実験でも、脳内のブドウ糖が不足するとミエリンが脂肪分の貯蔵庫として使われることが示唆されたとのこと。また別の研究では、マラソンを走りきったランナーは反応速度が低下し、記憶力テストの成績も悪くなるものの、その後急速に脳の機能が回復することが報告されています。

研究チームは、神経変性疾患リスクがある人が激しい運動をすることの危険性について理解を深める必要性がある点などを念頭に、「今回得られた知見が脳のエネルギー代謝に関連する可能性があることから、さらなる研究が求められます」と論文に記しました。

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