朝日新聞は 事実よりも「ナラティヴ(物語)」を重視する。
〈「プーチン(ロシア大統領)の帝国主義的野心を止めなければ、終わらない。どんな合意も侵略の引き延ばしだ。その問題解決のためなら戦える」
ウクライナ東部ドネツク州の最前線で戦う兵士ワディム・リバチュクさん(36)が言っていた。〉(3月19日「朝日新聞デジタル」)
リバチュク氏は政治意思形成には関与しない一般のウクライナ市民だ。この発言を根拠にこのような議論が展開されている。
〈根本的な危機の原因として除去すべきは、リバチュクさんが言うように、プーチン氏の帝国主義的な野望であるのは明らかだ。〉(同前)
筆者は、外務省国際情報局(現在の国際情報統括官組織)で主任分析官をつとめていた。部下がこのような分析調書を書いてきたら書き直しを命じた。「戦争の根本原因を特定する場合には、一般市民の意見ではなく、政策意思決定に関与する者の発言を根拠とするように」と注文を付けた。もっとも朝日新聞にとって重要なのは、分析の正確さではないので、このようなナラティヴ重視でいいのだろう。
遡れば、1944年7月にサイパン島が陥落した。これによって絶対国防圏が崩れてしまった。合理的に考えれば、日本の勝利の可能性はなくなった。だがその後も、「朝日新聞」は連日、「必勝の信念」「聖戦貫徹」を主張し、それは1945年8月15日まで続いた。客観情勢を見ずに、主観的願望に固執するのがこの新聞の伝統なのだろう。
佐藤優(さとう・まさる)
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