中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない…理由はトランプ関税ではなく、習近平の「失策」© ニューズウィーク日本版

ドナルド・トランプ米大統領は4月7日、中国に対し、追加で50%の関税を課すと警告した。4月4日に中国が発表した34%の上乗せ関税に対する対抗措置だが、その「34%」は4月2日にトランプが中国製品に叩きつけた上乗せ関税と同率だった。

米中両国による関税措置は、エスカレーションの一途をたどっている(編集部注:4月12日時点で、アメリカが中国からの輸入品に課す追加関税は最大で計145%、中国がアメリカからの輸入品に課す追加関税は計125%に引き上げられている)。

貿易戦争の火蓋が切られた。どちらが先に引き下がるのか。

「習(近平)国家主席がトランプ大統領に電話して譲歩を求めると期待するのは、極めて甘い見通しだ」と、米ブルッキングス研究所のライアン・ハース上級研究員は4月4日、X(旧ツイッター)に投稿した。

「習が謝罪してくるとトランプに進言している者がいるなら、職務怠慢だ。今の北京にはそのような空気も計画もない」

確かにその通りだが、習近平にトランプに謝罪しないよう進言している者がいたとしたら、それも危険な職務怠慢だ。中国経済はアメリカ市場に大きく依存しており、脆弱な立場にある。さらに悪いことに、交渉のカードをほぼ独占しているのはトランプのほうだ

それでも、ハースの分析は正しく、習が対立姿勢を崩す気配はない。貿易戦争を回避するために、自国の略奪的・違法的な経済手法――特に、世界に中国製品をあふれさせる原因である製造業の「過剰生産」を見直すこともできたはずだった。

消費主導の経済モデルを一貫して拒否

内外の専門家からの忠告にもかかわらず、習は消費主導の経済モデルを一貫して拒否してきた。

実際、中国の経済システムは現在、個人消費を抑制する方向に設計されている。例えば、銀行の預金金利を意図的に低く抑えることで、工場などへの貸付を優遇し、その結果として消費者の購買力が削がれているのが実情だ。

習近平にとって、市民に力を与えるという発想は存在しない。さらに、米シンクタンク、外交問題評議会のソンユアン・ゾーイ・リューがフォーリン・アフェアーズ誌への寄稿で指摘するように、中国共産党指導部は消費活動そのものを嫌っており、「消費は個人主義的な気晴らしであり、中国の中核的な経済力、すなわち産業基盤から資源を奪うもの」と考えているという。Temu在庫処分セール - 自作 パソコン の 作り方 - Temu - 自作 パソコン の 作り方超割引セール

習は製造業を強化することで、共産党主流派を満足させ、経営難にある国有銀行を支え、さらには軍備増強にもつなげている。だが彼の政策は、過剰生産能力の問題を緩和するどころか、むしろ悪化させている。

関税を好むトランプに対し、習は挑発的な姿勢を取り続けてきた。しかし、客観的要因を見ていくと、中国がこの貿易戦争に勝てないことは明白だ。

まず、経済規模の違いがある。中国の経済はアメリカの3分の2以下にとどまっている。2024年、アメリカのGDPは約29.2兆ドルに達したのに対し、中国国家統計局が報告したGDPは18.8兆ドル。ただし、この数字は水増しされている可能性が高い。

トランプが今、中国の将来を左右できる立場

さらに、中国は貿易黒字国である一方、アメリカは貿易赤字国だ。米中間でモノの輸出額から輸入額を引いた2024年の貿易赤字は2954億ドルに達し、2023年より5.8%増加している。

貿易黒字国は貿易戦争において武器を持たない。失うものが大きいのは黒字国のほうだ。

消費主導の経済モデルを拒否してきた習は、経済再建の手段として輸出にほぼすべてを賭けている。だが中国経済は昨年、政府当局が「目標を達成した」と発表した成長率5%を実際には達していない。足元ではデフレ傾向にあり、実質的にまったく成長していないとの見方もある。

トランプ大統領は、関税で彼ら(中国)のビジネスモデルを破壊した」と語るのは、スコット・ベッセント米財務長官。4月4日に配信されたFOXニュース司会者、タッカー・カールソンの番組でこう述べた。

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中国は我が国との間に巨大な貿易黒字を抱えている。彼らにはアメリカ市場が必要で、それがなければ生き残れない

要するに、習近平は中国経済の命運を、替えのきかない輸出先であるアメリカ、まさにその国のリーダーの手に委ねたことになる。トランプが今、中国の将来を左右できる立場にあるということだ。

貿易を専門とする米エコノミスト、アラン・トネルソンは4月7日、本誌の取材にこう語った。「今の習近平の立場にはなりたくないね。彼のリボルバーには空の弾倉がある」

2018年は輸出側の中国が関税を負担していた

習に残された唯一の道は、トランプに譲歩させることだ。そしてその役目を、アメリカ国民が果たしてくれることを期待している。中国外務省の報道官は4月5日、「市場が語った」と述べ、トランプ関税を受けて起こった世界的株安に言及した。

トランプが発表した「解放の日」関税と、それに対抗する中国側の強硬な対応――非関税措置も含む――により、世界の株式市場は軒並み急落している。

では、中国はどれだけ持ちこたえられるのか

戦い続けるには、資金を投入しなくてはならない。筆者の友人によると、アメリカの大手エネルギー企業の元CEOが最近、複数のサプライヤーからの入札を受け取ったという。その中で入札額が最も低かったのは、中国企業。中国政府がトランプ関税の一部を肩代わりする方針を示していたことも理由の1つだった。

2018年には、アメリカ市場へのアクセスを維持するために、中国政府と製造業者がトランプ政権の課した25%の関税のコストの75~81%を吸収していた。今回はその時以上に関税を肩代わりする動機が大きいだろうが、習政権に財政的な猶予はない。

トランプは4月6日、今回の問題は単なる関税にとどまらないと、大統領専用機エアフォースワンの機内で記者団に語った。

「毎年数千億ドルを我々は中国相手に失っている。この問題を解決しない限り、私はディール(取引)に応じない」

貿易戦争には勝者が存在する

現実には、中国がアメリカとの貿易関係を根本的に見直すためには、経済システムそのものの構造改革が不可欠だ。果たしてそれが可能か。

中国の官製メディアが毎年繰り返す主張とは裏腹に、貿易戦争には勝者が存在する。トランプ関税の発表は、中国に対する「自分が先に折れることはない」という明確なメッセージとなった。

この貿易戦争において、勝者は中国ではない。

[筆者]

ゴードン・チャン(Gordon G. Chang)

ジャーナリスト、作家、弁護士。最新刊はPlan Red: China’s Project to Destroy America and The Coming Collapse of China(未邦訳。 アマゾンはこちら)。Xアカウント: @GordonGChang

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