トランプ関税2審も違法判断、 関税返還なら財政危機 「自爆災害」とクルーグマン 

トランプ関税2審も違法判断、 「自爆災害」とクルーグマン 関税返還なら財政危機も© ニューズウィーク日本版

世界に激震が走った相互関税発表の日(4月2日) REUTERS/Carlos Barria

<「景気は絶好調」と主張する一方で「経済的緊急事態」を根拠に、関税を発動した自己矛盾を突かれた>

アメリカのドナルド・トランプ大統領が経済に対して「自ら招いた災害」に直面していると、ノーベル賞経済学者のポール・クルーグマンが述べた。

連邦控訴裁判所は8月30日、いわゆる「トランプ関税」の大半が違法であるとの判断を下し、一審にあたる国際貿易裁判所の判断を支持した。確定すれば、アメリカ政府はこれまでに徴収した関税を返し、財政危機にも陥りかねない。

今回の判断は、関税そのものを違法としたわけではない。問題とされたのは、トランプが1977年の「国際緊急経済権限法(IEEPA)」を根拠に「経済的緊急事態」を宣言し、議会の承認を得ずに関税を一方的に設定した点だ。裁判所はこのプロセスが法を逸脱していたと判断した。

トランプが1977年の「国際緊急経済権限法(IEEPA)」を根拠に「経済的緊急事態」を宣言し、議会の承認を得ずに関税を一方的に設定した点だ。裁判所はこのプロセスが法を逸脱していたと判断した。
国際緊急経済権限法(IEEPA):大統領に輸入規制の権限(関税設定権限?)を与えている.しかし行政命令による関税賦課の権限は含まれていない

クルーグマンは自身のブログで「これは完全にトランプが自ら招いた災害だ」と指摘した。

「彼は議会の共和党を説得すれば、あの狂った貿易政策も通せたはずだ。だが彼は我慢できず、法をねじ曲げてでも独裁的に事を進めようとした」

今回の判決は、トランプが掲げてきた既存の貿易政策を抜本的に覆す戦略にとって、大きな打撃となる。彼には1974年通商法などの代替的な権限もあるが、それらはより限定的で、迅速かつ広範な措置には向いていない。

IEEPAを使ったトランプの関税発動は、予測不能なかたちで実行され、国際市場を混乱させた。アメリカの同盟国や貿易相手国との関係も悪化し、消費者物価の上昇や経済成長の鈍化懸念も広がった。

一方で、関税はトランプの経済戦略の中心でもあった。ヨーロッパ連合や日本などに対して関税を交渉カードとして用い、有利な貿易協定を引き出したと主張。さらに、関税収入が数百億ドル規模に達し、2025年7月4日に署名した大型減税の財源にもなったと訴えている。

クルーグマンは、「経済は絶好調だ」と繰り返していた本人が、突然「緊急事態」として関税を正当化したことが、法的な正当性を大きく損なったと批判する。

判決後、トランプは自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」に以下のように投稿した。

「すべての関税は今も有効だ!極めて党派的な控訴裁判所が誤った判断を下したが、アメリカは最終的に勝つ。関税が撤廃されれば、国家は完全に破滅し、経済的に弱体化する。我々は強くなければならない」

クルーグマンは、トランプが「解放の日」として輸入品への相互関税を発表した直前――つまり4月2日以前の時点では、アメリカ経済は安定していたと指摘した。

ただし、マッキンゼーおよび経済分析局(BEA)のデータによれば、2025年1〜3月のGDP成長率は年率換算で0.3〜0.5%のマイナスとなっており、2024年10〜12月の2.4%成長からは明確に減速していた。

その後、経済は持ち直し、2025年4〜6月期のGDP成長率は3.3%に達した(BEA調べ)。

仮に今回の判決が確定すれば、アメリカ政府はすでに徴収した関税の一部を返還する義務を負う可能性があり、これは連邦財政にとって大きな打撃となる。関税収入は7月時点で1,420億ドルに達し、前年同期比で2倍超に膨らんでいる。

司法省は今月の裁判資料の中で、「関税撤廃はアメリカに財政的破滅をもたらす可能性がある」と警告した。

トランプはこの判決を連邦最高裁への上告の意向も示しており、同じ投稿でこう述べた。

「今後は連邦最高裁の支援を得て、関税をアメリカの利益のために活用し、再びこの国を豊かで強く、力ある国にする」

クルーグマンは、保守色の強い最高裁がトランプに有利な判断を下す可能性も否定できないとしつつ、「さすがに最高裁も線引きするかもしれない」と述べた。

「今後どうなるかは分からない。最高裁はトランプの意向に追従するかもしれないが、今回はさすがに一線を越えることを躊躇するかもしれない」

クルーグマンはブログで次のようにも書いている。

「確かにIEEPAは、経済的緊急事態の際に大統領に関税を設定する権限を与えている。だが、トランプ自身が『経済は好調で、インフレもない』と繰り返す中で、緊急事態を主張するのは矛盾している」

*国際緊急経済権限法(IEEPA)について、大統領に輸入規制の権限を与えるものの、行政命令による関税賦課の権限は含まれていない

公益訴訟センター(Liberty Justice Center)の訴訟責任者ジェフリー・シュワブも、「今回の判決は、大統領に無制限の関税権限があるわけではないことを明確にした」と述べたうえで、「この判断は、違法な関税がもたらす不確実性や損害から、アメリカの企業や消費者を守るものだ」と評価した。

トランプはSNSで、「今回の判決が確定すれば、アメリカは破滅する」と警告し、次のように続けた。

「アメリカはこれ以上、他国による巨額の貿易赤字、不公平な関税、非関税障壁を容認しない。これらは我が国の製造業や農業、そしてすべての国民を傷つけてきた」

「『関税』こそがアメリカの労働者を守り、『メイド・イン・アメリカ』の製品を生み出す企業を支える最善の手段だ。これまで無関心で無能な政治家たちが、関税の乱用を他国に許してきた」

今回の判決は、2025年10月14日に発効予定とされている。トランプ陣営が最高裁へ上告するための期間が残されており、その結果次第では判決内容が覆る可能性もある。

マーサ・マクハーディ

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