追手町記者クラブ CM化するニッポン 

CM化するニッポン シーエムカ スル ニッポン
なぜテレビが面白くなくなったのか
著者 谷村智康/著 タニムラ,トモヤス
出版者 東京 WAVE出版
出版年 2005.10

テレビは広告を放送するビジネス
驚かれるかもしれませんが、テレビ局にとって本当の商品は広告です。
テレビ局は、番組を放送するところと思いがちですが、広告を見せること
でビジネスとして成り立っています。実は番組は広告を売るための客寄せに
すぎないのです。
その広告の値段は、放送1回当たりいくらではなく、広告を何万人に見せ
たかで決まります。
視聴率”ということばで誤解しがちですが、表しているのは視聴者総数
です。わかりやすく言うと、視聴率とは収穫高のことです。日本には約1億
人の人口がいますから、10%の視聴率は1000万人が見てくれたというこ
とを意味します。20%の視聴率なら2000万人が見てくれたことになりま

「ニュース」もうかつには信用できません。
報道に見せかけた「見えない広告」用の番組もあるからです。
例えば、『めざましテレビ』 『やじうまプラス』といった報道風の番組があ
ります。
テレビ局のアナウンサーが司会を務め、有名なコメンテーターが評論していても、
そして体裁がニュース風の番組であっても、これらの番組は正式にはニュースではないのです。
報道なのは「ニュースをお伝えします」「報道局からお伝えします」とのコメントで始まるコーナーだけです(こうした番組がニュースではないと気がついていましたか?)。
報道番組で広告はできませんが、こうした番組はニュースではありませんから、
「見えない広告」 を請け負ってもかまわないのです。
ニュース風に仕b立てることで真実を装いながら、報道と広告を織りまぜて放送しているので

す。
では、ニュースなら信頼できるでしょうか。
最近は、報道番組の中でもレポートと称し、企業名や新商品をはっきりと
映すことが増えてきました。これらは広告ではないはずです。
報道は中立で、
スポンサーの意向に左右されない原則があるからです。
しかし、ニュースで好意的に報道されれば、視聴者へ与えるインパクトは
格段に大きなものです。商品の売れ行きや会社の株価を左右することすらあ
ります。
報道を操るテクニックがあり、そ
のプロもいるのです。
ニュースだからといって、情報をうのみにするのは危険です。

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新聞記者を飼う方法
そこで考え出されたのが記者クラブです。
しくみは簡単。社屋の一角に机やイス、ごろ寝用のソファー、電話とFA
X(最近は記者が自分で携帯とノートPCを持つようにはなってきています
が)を用意して、記者に応対する社員を配置して、お茶のセットくらいをサ
ービスしておけばことはたります。 こうした部屋に記者を常に滞在させてい
るのです。
そして、なにかあったらプレスリリースという「新聞記事の原稿案」を記
者に配ります。プレスリリースはそのまま新聞記事になりそうな体裁で書か
れています。サービスのいいときには、記事の原稿案だけではなく、関連す
る写真、それらをデータ化してあるCD-ROMがワンセットになったプレ
スリリースセットを配布することもあります。
プレスリリースを受け取った記者はCD-ROMをノートパソコンに入れ
て、プレスリリース文章の段落を入れ替えたり、文章を削ったり足したりの
「校正作業」をするだけで、ハイ、新聞記事のできあがりです。
プレスリリースを配布するだけでは、クラブに詰めている新聞記者も手持

ち無沙汰ですから、ときどき彼らを連れて一緒に飲みに行くのが宣伝部長と
広報課長の仕事です。もちろん社のおごりで。
これが「記者を飼う」ことで「記事を買う」 しくみです。
記者クラブは、記者にとっても都合が良いのです。
そこに行けば記事のネタがあって、マスコミ全社に平等に配ってくれます。
記事を仕上げるのに必要な設備はそろっているし、おまけにその費用はPR
側が負担してくれる。とても楽だし、懐も痛まない。まるで談合を思わせる
ような横並び、取材先との癒着と記者クラブは批判されています。
そこで、記者クラブに参加しているマスコミは反論します。 プレスリリー
スを鵜呑みにしているわけではなく、独自取材によりその裏づけはきちんと
取っている。批判的姿勢を忘れず取材にあたっている、と。
おそらく、この言葉にウソはないと思います。早朝深夜にわたる取材を通
して、情報をきちんと検証しているのだと思います。
しかし、PRの思惑は違います。

PRにとっては、記者がリリースの裏を取っているかはどうでもいいこと
です。目指しているのは、消費者との良好な―あるいは都合の良い関係づ
くりです。そのために好意的な記事が紙面を飾るという結果が重要なのであ
って、記者がプレスリリースをそのまま転載しようが、独自取材をしたうえ
で記事にしようが、そんなことは重要でないのです。
対マスコミ戦略において、記者を身近にキープしているというだけで十分
な成果です。 世の中にたくさんの組織があり、さまざまな記者発表が行われ
ており、 また、あまたある出来事の中で、記者が話を聞いてくれる。そうい
う状況を作り上げているだけで、PRの戦略的な目標は達せられているので
す。
あとは、記事に、それも好意的なものであるように、なるべく大きく載る
ように工夫する戦術的な話です。「遠慮なく批判」されないためのテクニッ
クを準備して対処しているのです。
記者クラブの維持費は1ヵ月あたり数百万円がせいぜい。テレビや新聞で

広告することを思えば、大した金額ではありません。それで、報道各社の記
者を囲い込めるのだから安いものです。だから、大企業は軒並み記者クラブ
を持っています。
とりわけ、表立って広告のしにくい「商品」を抱えている企業は熱心です。
広告が禁止されているタバコ会社や意見の分かれる原発を抱える電力会社な
どは、記者クラブの運営に力を入れています。費用対効果でみると、実はか
なり安上がりです。 PR会社の試算によるとトヨタのPR対策効果は100
億円を超えるとも言います。新聞記者の意識や意図はともかく、PRはこの
ように成果を収めているのです。
最後に、他のマスメディアについても触れておきましょう。
ラジオ(特にFMラジオ)はメディアをあげて、音楽業界のプロモーショ
ンを担っているようなものです。 その証拠に、放送される曲は新曲ばかりで
す。なぜなら、レコード会社や音楽事務所が売りたい曲だから。CDは無料
で届きますし、番組で大きく取り上げるとなればタレントが無料で出演して

どです。情報の受け止め方は人それぞれなので、CMは成功したけれど商品
は売れなかったという笑い話もあります。
エリマキトカゲが走り去っていく広告は評判になったけれど自動車は売れ
ませんでしたし、ウーパールーパーが出てきたCMはそもそも何の商品の広
告であったかすら覚えていない人が多いのではないでしょうか。牛若丸三郎
太(時任三郎)の『リゲイン』のCMは「24時間働けますか」というキャッ
チコピーとともに大受けして、CMソングが急きょCDで発売されたほどで
したが、商品の売り上げにはつながりませんでした。
だから、メディアには影響力がないんだと言う人がいます。番組の暴力表
現が子どもたちに悪影響を与えていると批判されたときなど、テレビ局の人
はそう弁解します。その気持ちはわからないでもありませんが、「テレビに
視聴者への影響力はない」と言ってしまったら、広告の影響力も否定するこ
とになってしまうでしょう。 本当にそう思っているのなら「テレビで広告を
放送しても、売上は伸びませんよ」と広告主に言うべきでしょう。

逆の発想で考えてみましょう。ジャーナリストやクリエイターの人たちは
自分たちの記事や作品が、人に感動も喜びも影響も与えないと思って、仕事
に励んでいるのでしょうか。そんなことはないと思います。
また、すぐれた作品を見て感動したり、力づけられた経験は誰もがあると
思います。そうした経験からも、メディアは人を動かすことができる(こと
がある)と言えるでしょう。
これらのことから言えるのは、メディアの影響力は確かにある。しかし、
そのメッセージが思惑通り伝わるとは限らないし、まったく違った意味とし
て受け取られることだってある。 そして、影響力を発揮しない場合も多いと
いうことでしょう。
確実に言えるのは、ここまでだと思います。
分かっているのは、情報を送りつづけることで、ある程度の確率で影響を
及ぼすことができるということ。だから、年間4兆円もの大金をメディアに
つぎ込んで広告を流しているのです。
逆の発想で考えてみましょう。ジャーナリストやクリエイターの人たちは
自分たちの記事や作品が、人に感動も喜びも影響も与えないと思って、仕事
に励んでいるのでしょうか。そんなことはないと思います。
また、すぐれた作品を見て感動したり、力づけられた経験は誰もがあると
思います。そうした経験からも、メディアは人を動かすことができる(こと
がある)と言えるでしょう。
これらのことから言えるのは、メディアの影響力は確かにある。しかし、
そのメッセージが思惑通り伝わるとは限らないし、まったく違った意味とし
て受け取られることだってある。 そして、影響力を発揮しない場合も多いと
いうことでしょう。
確実に言えるのは、ここまでだと思います。
分かっているのは、情報を送りつづけることで、ある程度の確率で影響を
及ぼすことができるということ。だから、年間4兆円もの大金をメディアに
つぎ込んで広告を流しているのです。

そして考えさせるな
さて、今回の標的はあなたです。
あなたが見るテレビには初めて見るCMが大量に流れています。いままで
全く知らない商品でしたが、短い期間に何度も目にしましたから、あっとい
う間に覚えてしまいました。ケータイのメールマガジンにも情報が入ってい
ます。どうやらかなり評判のようです。翌日、立ち寄ったコンビニでいつも
の雑誌を買うと記事として大きく取り上げられています。常連のライターや
有名人がこぞって誉めています。格好いいカラーの広告も載っていて、値段
や機能もしっかり把握しました。
街角や駅、電車やバスの中にはポスターがたくさん貼ってあります。 かな
り話題の商品のようです。学校やオフィスでさっそく話題にします。「あれ
知ってる? なんかすごそうだよね。有名人もベタぼめだし。え、知らない
の? 遅れてる!」 ちょっと自慢げに話します。

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