タイラー・ロビンソン容疑者/Utah Governor’s Office via CNN Newsource© CNN.co.jp
(CNN) 米ユタ州郊外で育ったタイラー・ロビンソン容疑者は前途有望に見えた。家族との結びつきが強く、標準テストで良い成績を収め、SNSへの投稿によれば、成績評価指標のGPAでは「4.0」を獲得していた。
2021年の高校卒業後には、4年間の奨学金を提供するというユタ州立大学からの書簡を誇らしげに読み上げる動画を撮影した。
しかし、ロビンソン容疑者はわずか1学期で州立大学を離れ、休学してそのまま戻ることはなかった。
当局は現在、ロビンソン容疑者が保守活動家チャーリー・カーク氏を今週狙撃した場所とされる屋上にたどり着くまでの数年間で、何が起きたのか調べを進めている。
警察は依然捜査中だが、当局は政治的な動機があったことを示す潜在的な証拠として、銃撃現場付近で発見されたライフルの薬きょうに刻まれていた反ファシストのメッセージに言及した。
弾丸の一つには「おいファシスト! 捕まえろ!」と刻まれており、ユタ州のコックス知事は12日、メッセージの意味は「おのずから明らか」との見方を示した。家族の一人は捜査員に対し、容疑者が「近年、政治的な傾向を深めていた」と証言。特に、最近の家族の夕食の席でカーク氏を非難していたことを挙げた。
ただ、薬きょうのメッセージにはインターネットミームやビデオゲームへの言及も混ざっており、意味の解読が難しい皮肉にあふれたオンライン世界へ深く没入していたことが示唆されている。
「いつも物静か」
ロビンソン容疑者を知る人は、彼の政治的な傾向に関して様々な記憶を証言した。数週間前にロビンソン容疑者と一緒に仕事をしたという電気技師は、「話しかけられない限り積極的にしゃべらない」内気な人物だったと振り返った。
この電気技師によると、ロビンソン容疑者は「誰かが政治の話題を持ち出さない限り、政治の話はあまりしなかった」という。「トランプ氏やチャーリー(カーク氏)のことはそれほど好きではなかった」とも言い添えた。
だが元同級生の一人がCNNに語ったところによると、数年前の高校時代、ロビンソン容疑者は家族と同様に政治的に保守的で、2020年大統領選を控えた時期にはトランプ大統領を支持していたとされる。
「彼やその家族を知ったときは、熱烈なトランプ支持者のようだった」と元同級生は語る。「今回のようなことが起きて、何というか…何が変わったのか全くわからない」
有権者登録の記録によると、現在のロビンソン容疑者はどの政党にも帰属せず投票する旨を登録しているが、ワシントン郡の当局者の声明によると、実際に投票したことは一度もない。
前出の元同級生はロビンソン容疑者のことを「ゲームにのめり込んで」いて、ビデオゲームのデザインにも興味があったと振り返った。友人たちと「昼休みにカードゲームなどの類いで遊んでいた」という。
ロビンソン容疑者は「いつも物静かで」「少し抜けたところがあった」と、元同級生は語る。心配になるような発言をしたり、トラブルになったりした記憶はないと言い添え、「一緒にいて楽しかったし、話すのも楽しかった。ただ内気で、心を開く機会はそれほどなかった」と語った。
ロビンソン容疑者を知る人はいま、当時のイメージと警察が示した容疑の折り合いを付けるのに苦労している。
弾丸の薬きょうとオンラインミーム
ロビンソン容疑者の出身地は、ユタ州南西部セントジョージの閑静な郊外。州の有権者登録の記録によると、両親は共和党員として登録されている。近隣の住民によれば、地域社会では愛想が良く親切な人たちとの評判だという。
SNS上の写真には、旅行やアウトドア活動を楽しむ一家の姿が写っており、その中にはロビンソン容疑者と兄弟が銃を扱う写真もあった。他の写真からは、ロビンソン容疑者が長年にわたってオンライン文化と深く関わっていたことがうかがえる。ハロウィーン写真の1枚には母親のコメントで、ロビンソン容疑者は「ミームから出てきた人物」のような仮装をしていたと記されている。
ロビンソン容疑者は21年、セントジョージの地元高校を卒業した。学校の広報担当者が確認した。母親が投稿したフェイスブックの動画には、奨学金に関する書簡を読み上げるロビンソン容疑者の姿が映っており、ユタ州立大学に通う地元学生向けの大統領奨学金を獲得したようだ。
大学の広報担当者は12日の声明で、ロビンソン容疑者は「2021年にユタ州立大学に1学期だけ在籍していた」と明らかにした。工学専攻の準備課程を履修していたが、最初の学期の後に休学したという。
その後はセントジョージにあるディキシー工科大学に入学したと、大学の広報担当者が声明で明らかにした。現在は電気技師の見習い課程の3回生で、州の記録によれば22年に見習い電気技師の免許を取得している。
最近はおおむねセントジョージの集合住宅に住んでおり、近所の25歳の住民はCNNの取材に、数回話したことはあるが、容疑者が政治的に強い見解を持っていた記憶はないと語った。
ロビンソン容疑者の実家は車で10分ほどの地域にあった。ロビンソン家から数軒離れた場所に住む男性は、容疑者は「普通の人」に見えたと語った。近所で姿を見かけたこともあるが、政治的な暴力に及ぶような危険な前兆は記憶にないという。
コックス知事によると、家族の一人は捜査員に対し、ロビンソン容疑者が最近の夕食の席で、ユタバレー大学で予定されるカーク氏のイベントに触れていたことを明かした。「家族内でなぜカーク氏が好きになれないのか、カーク氏の考え方について話し合った」という。
ロビンソン容疑者の出身地からユタバレー大学のキャンパスまでは車でおよそ3時間半。そこで10日午後、イベントを開催中だった著名活動家のカーク氏を射殺した疑いが持たれている。
銃撃事件の後、警察はキャンパス付近の雑木林でボルトアクションライフルを発見した。
警察によると、ライフルの薬きょうには「Oh bella ciao, bella ciao, bella ciao, ciao ciao(さらば恋人よ、の意味)」などの文言が刻まれていた。これはイタリアの反ファシスト抵抗歌に言及したものだが、ビデオゲームの世界やオンライン文化では新たな意味も帯びている。
他の刻印にはインターネット上のトローリング(荒らし行為)やミームとの関連を示唆するものがあり、中には「これを読んだお前はゲイだ」という文言もあった。
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