『アフターマン 人類滅亡後の地球を支配する動物たち』
ドゥーガル・ディクソン/著
今泉吉典/監訳 太田出版 1990.4
人類は、初め植物の採集と狩猟によって生活していた。
この点では,植食動物や肉食動物とあまり違いはなかった。
だが、知能に優れる人類はやがて道具や武器を考え出した。
より効率的に狩猟や食物集めをするために群れを組織した。
しかし、 このような行動が周囲の環境に大きな影響を及ぼすことはなかった。
狩猟と採集の生活を捨て、
特定の場所で動物や植物を育て始めたとき,人類は最初の一大転機を迎えた。
これによって狩猟で危険を犯す必要がなくなった。
また狩から手ぶらで帰る不安からも解放され 餓死の恐れも減少した。
こうして農耕が始まった。
初めのうちは、人類が耕地に使う面積はわずかなものであった。
しかし、劇的な速度で人類の生活が改良され,
人口が飛躍的に増加するにつれて,人類は作物を栽培したり,
家畜に草を食べさせたりするために、つぎつぎに植生を切り開かなければならなかった。
創造力と道具作りの能力が備わるにつれ, 人類は
より早く、より容易に,しかも産業的な形態の中で道具を生み出すことを考えた。
当然、物を燃やすことによって生じるエネルギーを利用しようとした
わけである。薪 (A) にするために森林が伐採され,石炭を得るために
山腹は無惨に削り取られた。 数千年後には,地上の景観は,一変し
ていた。
人類の知識は,とりわけ医学の分野で著しく増大した。 怪我や疾
病は,人類の努力によって克服され, 自然の人口抑制効果は減
少した。
致命的な遺伝的欠陥は, 未開のころだったならば自然選択
により除去されたであろうが,そうした遺伝的欠陥も,その保持者
が生き延び、生殖できるようになったため, 除去されなくなった。
人口は爆発的に増加し, 人間の手が触れない地域は、地球上からほ
とんど消えた。
人間以外の動物は,進化というゆったりした過程を辿って変化
し、住んでいる環境にぴったり適応する。
しかし人類は逆に,自分
たちの当面の目的に便利なように環境を変えた。 人類は進化とは無
関係に生き続け, 急速に発展した。 その文化は遺伝子の力を借りず
学習によって次の世代へ伝えられた。
人類は, 自然選択の厳しい判
決に従わずに生きた。 しかしそうすることによって, 自然選択がも
たらしてくれるはずの長期的な恩恵を拒否し、自らの進化を停止さ
せる結果を招いた。
あとに残ったのは, たった一つの個体群である
人類が,自ら意図的に人口調節を行わない限り, 生存がおぼつかな
いほど人間で溢れている世界, そして人類の廃棄物で醜く汚れてし
まった世界であった。
そしてついに, 農業,工業,医学などに必要とされる資源が絶え
る日がやってきたのである。
資源の欠乏により,一つの社会機構が崩壊すると,
それが次の社会機構の崩壊をおびき寄せる引き金となる。
複雑に関連し、 依存し合っていた人類の社会組織,その巨大な技術組織は崩れ去り,
適応力を完全に失った人類は,絶滅への一途
を辿った。
人間という支配者がいなくなった動物界は、進化の大混乱期に突
入した。混乱はその後何万年、何十万年と続き、それをきっかけと
して数々の新しい動物の種が誕生した。 人間が滅びてから5千万年
後に出現した世界は,いわば人類の滅亡という事実を踏み台として
成立した世界なのである。

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