11月3日のアメリカ中間選挙。
共和党が上院で過半数を割る可能性はどれくらいなのか
確かに4月21日付英国『The Economist』誌
中間選挙の観測記事を掲載(Virginia’s redistricting may be the nail in Republicans’ coffin=ヴァージニア州の選挙区再編は、共和党にとって致命的な一撃となるかもしれない )。
同誌の「推計モデル」によれば、民主党が下院の多数を奪還することはほぼ決定的
上院で逆転する可能性が48%。
下院は435議席の全数改選であり、現在は共和党218議席、民主党214議席、欠員3。
民主党はほんの数議席増やすだけで、過半数を得ることができる。
しかもヴァージニア州が選挙区割りの変更を行う予定なので、これだけでも民主党にはかなりの追い風となる。
上院での民主党逆転はコンセンサスに反する内容で、常識的にはかなり難しいとされている。
上院の議席数は共和党が53議席で民主党が47議席。民主党は数字上では共和党を4議席切り崩せばいい計算となる。
ただし上院は任期6年で、2年ごとに3分の1議席ずつが改選される。
今年は共和党31議席と民主党34議席が非改選であり、残る35議席が争われる。その内訳は共和党が22議席、民主党が13議席だ。共和党は3議席を落としてもまだ50対50となり、上院議長を兼ねるJ・D・ヴァンス副大統領の1票があるから、かろうじて与党にとどまることができる。
しかも、民主党はまず、激戦区であるジョージア州とミシガン州の議席を守らねばならない。それから共和党現職が空席となるノースカロライナ州を確実にゲットする必要がある。
そのうえで、メイン州とオハイオ州とアラスカ州の共和党現職を打ち破れば、これで4議席増となる。できれば敵失に乗じてテキサス州も取りたい……と言うと、少々虫がよすぎるようにも思えてくる。それでも今のイラン情勢からインフレ再燃、トランプ政権の支持率低下という展開を考えると、この秋にそれくらい激震が走っても不思議ではあるまい。
実際に、万能予測サイトの「Polymarket」で中間選挙の動向を見ると 、「共和党の上院過半数獲得は51%」という判定になっている。つまり、この秋に民主党に風が吹いて、共和党が総崩れになるシナリオを市場は半分くらい織り込み済み、ということになる。
ただし選挙は水物。半年先のことなどわからない。「中間選挙の趨勢は、9月の「レイバーデイ」(今年は9月7日)をすぎてから考えよ」というのがこの世界における定跡である。
見逃せない「ケンタッキー州5月19日の予備選挙」
そんなことより、今月中にも到来する予備選挙に注目すべきであろう。筆者のお勧めは、5月19日に行われるケンタッキー州予備選挙だ。ここがアメリカ政治における当面の分岐点になると思うのである。
ケンタッキー州と言うと、読者諸兄は何を思い浮かべるだろうか。ご存じKFCことケンタッキーフライドチキンは、カーネル・サンダースおじさんが1930年に同州で創業したチェーン店である(現在は本社をテキサス州に移転)。今や日本でもお馴染みの味であり、筆者も大型連休に孫たちと一緒に「こどもの日バーレル」を楽しんだものだ。
この連載の愛読者であれば、競馬のケンタッキー・ダービーを想起するかもしれない。言わずと知れた「アメリカ版3歳クラシック3冠」の緒戦であり、同州のチャーチルダウンズ競馬場で行われ、「スポーツの中でもっとも偉大な2分間」と称される。
5月2日に行われた今年のレースでは、西村淳也騎手騎乗の日本馬ダノンバーボンが最後の直線で先頭に立ち、結果は5着に終わったとはいえ、つかの間の「夢」を見させてくれた。
一筋縄ではいかないケンタッキー州の土地柄
同州の名産物であるバーボンウイスキーも忘れてはならないだろう。「I.W.ハーパー」や「フォアローゼス」は同州を代表する銘柄である。名門ジム・ビーム社は今ではサントリーの傘下に入っているが、多くの日本企業が投資している州でもある。トヨタ自動車の工場ではカムリなどを生産し、自動車部品工場も多く同州で活動している。
ケンタッキー州は南部と中西部の境界に位置している。北はオハイオ、インディアナ、イリノイ州に、南はテネシー州に接している。歴史的には1792年にヴァージニア州から分離し、合衆国15番目の州に昇格した。南北戦争では南軍に参加せず中立を維持した。
アパラチア山系に位置し、独自の「アパラチア文化」を有する州でもある。ヴァンス副大統領が出世作『ヒルビリー・エレジー』で描いていたように、「反政府」「反権威」「反エリート」の骨っぽいお土地柄だ。1990年代までは民主党支持州であったが、今は典型的なレッドステーツで、「ティーパーティ」や「MAGA」の運動が深く浸透している。
この州の政治がまことに面白いのである。
現職の2人の上院議員はいずれも共和党
一人はミッチ・マコーネル前上院院内総務。
長年にわたってワシントンの議会政治を仕切ってきた重鎮だ。
防衛予算や農業補助金、石炭産業支援など、地元に利益を運んでくる古いタイプの政治家である。
もう一人はランド・ポール上院議員.
リバタリアン(政府による介入を最小化すべきだと主張する自由至上主義者)として、独自路線を歩んできた。父親のロン・ポールから2代続く変わり者政治家で、まさに「小さな政府」を擁護し、対外介入に反対し、そして「監視国家にも反対」を掲げる。言わば「反体制保守」を貫く信念の人である。
ケンタッキー州は、この2人を同時にワシントンに送り込んできた、マコーネル氏とポール氏は、いずれも「反リベラル」では共通するが、前者は州の利益誘導を担当し、後者は地元の「反体制の声」を代弁してきた。
州知事は民主党穏健派のアンディ・ベシア氏なのである。一筋縄ではいかないお土地柄であることが、ご納得いただけるだろう。
トランプ大統領との関係
両者は際立った対比。
マコーネル氏は共和党の屋台骨を支える側として、たびたびトランプ大統領と衝突してきた。しかし決定的に対立して、民主党を利するようなことはしない。造反はしないが降伏もせず、ギリギリのところで共和党の古い伝統を残そうとしている。
今年の中間選挙では、マコーネル氏は84歳という高齢を理由に引退が決まっている。
5月19日の予備選挙ではその後継者が決する。
たぶん元・腹心のアンディ・バー下院議員で決まりだろう。
トランプ大統領も、当初はMAGA色の強い候補者を模索していたが、最終的にバー氏の支持を決めている。たぶん双方の妥協が成立したのであろう。
ポール氏は、早い時期からトランプ大統領に接近してきた。
「反エリート」「アメリカ・ファースト」「対外不介入主義」などで重なる部分が多かった。
しかし盲従することはせず、今回のイラン戦争などでは遠慮なく政権を非難している。
あくまでも独自路線で、こちらは2028年に改選期を迎える予定。
もう一人の共和党議員、トーマス・マッシー下院議員が今後の焦点
5月19日にケンタッキー第4区で予備選挙を迎える。
マッシー氏もまた信念を貫くタイプだ。
「小さな政府」「反・銃規制」「反・DEI」「反・対外介入」などでMAGA派と重なるが、「反・大型歳出法案」や「エプスタイン文書の完全公開」などでは、遠慮なくトランプ大統領に逆らってきた。
これに対し、トランプ大統領は一介の下院議員を相手に大袈裟なくらいの反撃策を打ち出している。予備選挙では元海軍で農場経営者のエド・ガルレイン氏を支持し、イラン開戦中にもかかわらずケンタッキー州に乗り込んで、MAGA派を相手に応援演説を行っている。しかも自ら調達した政治資金を投入してもいる。目下の世論調査では、マッシー氏が47~52%、ガルレイン氏が38~48%というから、まさに紙一重の勝負となりそうだ。
その結果が意味するところ。
マッシー氏が負けるようなら、共和党内でトランプファミリーに逆らう人はいなくなるだろう。
28年の大統領選挙に向けて、共和党候補者の誰が勝っても、党内には「独立候補」に居場所はないということになる。
逆にマッシー氏が勝つようなら、「トランプ大統領があそこまで全力投入してダメなのなら、もう100%従わなくてもいいのかもしれない」ということになるだろう。「変人」が共和党内で許容され、昔のような多様性が戻ってくるかもしれない。
予備選挙は「トランプ王朝を守る戦い」の意味合い
つまりケンタッキー州予備選挙に懸かっているのは、「トランプ後の共和党はどうなるか」である。「自分に逆らうヤツを許さない」のはトランプ大統領の常ではあるけれども、今回の予備選挙には「トランプ王朝を守る戦い」という意味が込められているのではないか。
かつての共和党は、反共産主義、小さな政府、親ビジネス、宗教保守、財政保守など、さまざまな考え方が集まった政党であった。それが現在では、「トランプ運動」の一本に収斂されつつある。
しかるにこの運動、ドナルド・トランプ大統領個人の資質に負うところが大きく、「誰が正統な後継者か」が決まっていない。だからこそトランプ大統領は、自分に対する忠誠心を求め続けなければならない。
今回の記事で紹介した4人を改めて列挙すると、ケンタッキー州は、以下のように多様で「濃い」保守系人脈がそろっている。彼らの間で、「共和党の明日はどちらか」を決する戦いが迫っていると言えるのではないだろうか。
* ミッチ・マコーネル上院議員:伝統的保守
* ランド・ポール上院議員:リバタリアン
* トーマス・マッシー下院議員:原理主義的保守
* エド・ガルレイン候補:トランプ派、MAGAポピュリズム

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